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建築家リフォーム

2011年12月14日更新

ウォークイン・クローゼットの作り方

 新しいマンションや大きめの戸建住宅の間取り図を見ると、主寝室に隣接するように「WIC」と記載された小部屋を良く見かけるようになりました。WICとは、建築用語でウォークイン・クローゼットの略で、空間全体を洋服収納とした部屋の事です。一般の造り付けの洋服収納(壁面スタイル)は、寝室や廊下に面した折れ戸や引き戸を開けると、ハンガーに掛かった洋服が並ぶ形式で、一間分の巾で服が納まっていれば便利で使いやすいスタイルです。ただ、衣類の量がそれ以上になると、二つ以上の扉を開け閉めしながら、必要な衣服を探すことになるので、不便が生じます。その点、ウォークイン・スタイルは部屋に入ると、空間全てに衣服類が並び、グルッと見回すことができるので、一目で気に入った服を見付けることができます。

 私がリフォーム設計の修業をしたニューヨークで、高級住宅のウォークイン・クローゼットを設計する機会が幾度かありました。主寝室に隣接して、ご主人用と奥様用それぞれに分かれた大きな衣裳部屋があり、内部にシャワーやトイレがあり、そこから浴室に繋がるパターンとなっていました。要は寝室から浴室に抜ける間に服を脱ぎ、水廻りから寝室に戻るまでの間に、衣類全てを誂えて外出の準備をすることができる仕掛けになっているのです。さすがに、日本でそこまで大きなスペースを確保することは難しいですが、一畳程度の部屋にWICと銘打って販売している間取りには違和感を覚えてしまいます。中に踏み込むことができても、彼女または彼の服全部は入りきる大きさがなく、内部で服の着脱もできないクローゼットであれば、却って普通の壁面スタイルのクローゼットの方が絶対使いやすいハズです。壁面スタイルの方が、単位面積当たりの洋服収納数が多く、無駄なコーナー部分がなく、使いやすさも優れているからです。

 ただ、壁面収納は収納量に優れていますが、必要な量を壁に並べると、寝室の壁すべてが扉になってしまうことが多々あります。ベッド廻りに扉の開け閉めのスペースが必要となり、扉を開け放しにした時もベッドの周囲を歩ける通路幅を確保しようとすると、却って大きすぎる寝室になってしまいます。その点、WICは収納への扉が一枚で絵画などを飾るための壁が確保でき、落ち着いたベッドルームを作ることができます。また、あまり知られていないポイントですが、扉を沢山作ることはコスト増に繋がるので、扉が一枚で内部には扉が不要なウォークイン・クローゼットは、却ってローコストで作れる可能性もあるのです(扉材のグレードや広さ、内部の使い勝手によって変わります)。

 これまでのリフォーム物件で設計したウォークイン・クローゼットの事例を紹介します。高輪M邸では、衣装持ちのご主人の為に、長細いWICを作りました。両側にハンガーパイプを設け、片側にはジャケットを二段にして並べ、反対側にはパンツ(ズボン)を吊っています、正面には引き出しを作り、下着類を納め、入り口横の棚にシャツを収納しています。千代田区H邸は、ニューヨークスタイルの着替えることが可能なウォークスルー・クローゼットです。寝室と洗面・脱衣の間に、四畳半ほどのスペースを作り、中央に引き出し収納のアイランドを配し、四周にクローゼットを並べています。クローゼットの巾は二通りの寸法に共通させているので、可動式のハンガーパイプと棚板を使い勝手に応じて移動できるシステムとなっています。また、引き込みの扉に姿見の鏡を張り、照明も間接照明とすることで、柔らかい光が空間を包むように照らす工夫をしています。

 最後に、壁面クローゼットとWICは共に閉ざされた空間となるので、空気の流れが悪くなりがちです。特に北面で外部に面した部分に作ったクローゼットは結露や湿気に要注意です。調質機能のある壁材を使ったり、換気扇や通気が取れる窓をつくって空気の流れを作る必要があります。また、窓を設けた場合は、陽射しによって衣類が日焼けしてしまうこともあるので、曇りガラスにするか紫外線防止フィルムを張るなどの工夫も必要になります。



千代田区H邸のWIC。扉の背面の姿見や、天井の間接照明が使い勝手を向上させる工夫



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ニューヨーク郊外の別荘のWIC。浴室・シャワーブース、洗面まで組み込んだ大型クローゼット


高輪M邸のWIC。左右にハンガーパイプ、中央に通路を設けた、効率的な配置。
正面の鏡に、背面のシャツ棚が写り込んでいる。


H邸ではウォークスルー・タイプとなっている。主寝室と洗面脱衣の間に位置し、
引出アイランドを中心に回遊できる構成となっている




建築家
各務 謙司 (カガミ ケンジ)
建築家 各務 謙司

1966年東京都港区生まれ。早稲田大学大学院終了後、ハーバード大学大学院に入学。留学修了後、94年にニューヨークのCicognani Kalla設計事務所勤務。マンハッタンの高級マンションのリノベーション、郊外の別荘等を担当する。帰国後、生まれ育った白金台に設計事務所を開設。古くなった建物にリフォームで手を加え、住まい方にあわせカスタマイズし、生き返らせることを活動の一つの柱としている。
カガミ・デザインリフォームhttp://www.kagami-reform.com/

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