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建築家リフォーム

2012年01月25日更新

調理の巾が広がるキッチンパントリー

 キッチンリフォームの潮流が、対面型のセミオープンなキッチンから、よりオープンなキッチンへと動いていることを実感しています。しかし、オープンなキッチンは急な来客時にカウンター上の生活感を隠せなかったり、普段でも毎食後の片付けをしないときれいに感じられないなどの「逃げ」のなさで、思い切ってオープンにリフォームする勇気(?)がないという相談を受けることも多くあります。そんな時に、オープンなキッチンの奥にパントリーを設けると、隠す部分ができることで心理的に随分楽になるとアドバイスしています。パントリーとは、キッチンに隣接した食品や食器の収納庫の事で、欧米ではユーティリティーと合体し、洗濯機や乾燥機を置くこともあります。パントリーのサイズはキッチン周りの間取りの余裕度合いに応じて、色々な大きさが考えられますが、小さなものであれば、乾物や缶詰、重たくて置き場所に困るお米や一升瓶のお酒など常温保存可能な食品庫として使い、大きなウォークインスタイルを設ける余裕があれば、冷蔵庫や電子レンジ・炊飯器といった調理器具から、普段使わない大型の食器や漆器類までをしまえる便利な空間として使うことができます。

 パントリーに適した場所について考えてみましょう。キッチン周りのゴチャゴチャをなんでもしまえる収納として、空いた場所に適当に設ければ良い訳ではもちろんありません。キッチンからあまりに離れてしまうと、いつの間にか料理には関係のないものが増えて、ただの納戸か倉庫になってしまいます。調理作業の手順から考えると、食品庫としては冷蔵庫に似た機能があるので、冷蔵庫の近くに配置を考えることが良さそうです。また、常温保存の食品を置くことを考えると、日当たりがなく、低い温度で一定している住宅の北側が適しています。また、箱入りのジャガイモや漬物などの重量がある物も多いので、戸建住宅であれば勝手口と連動していると使い勝手も良くなります。キッチンと勝手口の中間に設置できると、キッチンには置きたくないビンや缶ゴミの保管場所としても使えます。

 マンションでは、スペースが取れる場合、目立った場所には並べたくない冷蔵庫・電子レンジや炊飯器なども納めるパントリーを、キッチンから廊下へ抜ける通路を設け、その途中にレイアウトすると便利です。スペースが限られており、小部屋としてのパントリーを作れないケースでは、トールユニット形の引き出し式パントリーを作る手があります。間口が狭くても、奥行きがあれば引き出すことで奥まで無駄なく使える収納セットを作るのです。パスタのストックや、震災の後重要度が増している予備の食品や水などを大量にしまっておくこともできます。また、キッチンに隣接していなくても、ダイニングに面していれば、ワインや果実酒、瓶詰にした手作りジャムやコンポートなどを見えるように奥まった棚に並べるのも、パントリーの一種類かもしれません。パントリーの使い勝手と、キッチン周りの間取りを見ながら、専門家に相談すれば、新築住宅に限らず、リフォームする際にもうまい位置にパントリーを設けることができるかもしれません。

 パントリーと、キッチンの壁面や吊戸収納との違いは何なのでしょうか?収納できる量や使い勝手の違いは確かにあります。壁面収納や吊戸収納は、普段使いの便利さを考えて、奥行きが浅く、扉を開ければすぐにものが取れる効率的なシステムになっています。ただ、扉を開けっ放しにしていると、調理作業の邪魔になるので、ものを取り出した後は、すぐに扉を閉めてしまいます。それに比較するとパントリーは、必要な物を出し入れするだけでなく、中を覗き込みながら色々と考えることができるちょっとしたおもちゃ箱のようなものかもしれません。もらい物や意識してストックしてきた食品を眺めながら食事のメニューを考えたり、買ってしまった調理器具を試してみたり、普段使わない食器を何かのタイミングで使うことを想像したりすることは、調理好きな人にとってたまらない楽しみになるのです。料理が苦手な人にとっても、パントリーがあることで、台所の人目につく部分をきれいに片づけやすいので、クッキングがしやすくなるというメリットもあるようです。
パントリーには、効率的、機能的を追求した壁面収納にはない、遊びの要素を取り入れながらキッチンスペースをより豊かな場所に変える役割があると思っています。ものを隠す場所として考えられたパントリーが、調理の巾を大きく広げる可能性を作り出しているところがとても面白く、リフォームの際にも積極的に提案している理由でもあります。


狭いキッチンでも巾30センチ程あれば、
引き出し式のパントリー収納は設置可能




かつて通路だった部分をリフォームでパントリーに変更した事例。
棚板の奥行きを変えて、色々な物を置けるように設計している


閉じたキッチンをオープンキッチンにリフォームする際には、ものを隠せて、
収納量が充実したパントリーを設けると便利だ



ダイニング横に設置された見せるパントリー。瓶詰はデザインを揃え、
缶詰もサイズを揃えて置くことで、調理心がそそられるディスプレイに




建築家
各務 謙司 (カガミ ケンジ)
建築家 各務 謙司

1966年東京都港区生まれ。早稲田大学大学院終了後、ハーバード大学大学院に入学。留学修了後、94年にニューヨークのCicognani Kalla設計事務所勤務。マンハッタンの高級マンションのリノベーション、郊外の別荘等を担当する。帰国後、生まれ育った白金台に設計事務所を開設。古くなった建物にリフォームで手を加え、住まい方にあわせカスタマイズし、生き返らせることを活動の一つの柱としている。
カガミ・デザインリフォームhttp://www.kagami-reform.com/

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