2012年05月16日更新
マンションにおける廊下の意味と効用について
雑誌やインターネットでマンションリフォームの事例を研究していると、「長く無駄な廊下を居室部分と合体させて、大きな空間を作った」という趣旨の説明文を多く見かける。どうも、マンションにおいては廊下は機能的に無駄な存在で、なるべくない方が良い「無用の長物」のように扱われているようです。自分でこれまで手掛けてきたリフォームでも、廊下を居室に取り込んだ間取りは少なくありませんが、反対に廊下のデザインを工夫し、特徴ある廊下空間を作りだしてきた例も多数あります。廊下の意味と効用を整理しながら解説してみたいと思います。
「廊下」という単語を辞書で調べてみると、「建物の中の部屋と部屋をつなぐ細長い通路」と書かれています。廊下は部屋と部屋が直接接しないように、緩衝帯のような働きをしていることが判ります。廊下をなくしてしまうということは、緩衝帯がなくなり、部屋と部屋が直接に接しあうことになります。昔の日本家屋では、部屋の襖・障子をあけるとすぐ隣の部屋になっていました。こういった間取りを通称「田の字プラン」と呼びます。建具の開閉で、部屋の広さをフレキシブルに調整できる便利さと、限られた面積を有効に使うことができるので、古い団地や面積が限られたマンションでは、この田の字プランが活用されています。しかし、田の字プランには、風通しとプライバシーという点でのデメリットがあります。つまり、部屋に風を通そうと建具を開けると、すぐ隣の部屋と繋がってしまい、特に個室と個室が接しているケースではプライバシーがなくなってしまうという欠点があるのです。
廊下を単なる人が通るだけの通路と考えると、無駄なスペースにも感じますが、実際に廊下を使っているとそれ以上の使い勝手があることが判るハズです。リビングに直接トイレが面していては使いにくいので、廊下を経てトイレに行く間取りが多くみられますが、この場面での廊下はプライバシーの緩衝帯として活用されています。廊下に絵を飾るという点では、住み手の趣味を映したギャラリーとしてみることもできます。廊下に面してクローゼット収納や本棚があるケースでは、ウォークスルー・タイプの収納と考えることもできそうです。その他にも、空間に奥行きや深さをもたらしてくれる効用もあります。
普通では疎かにしがちな廊下空間を、リフォームの際に単に削ってしまうのではなく、機能的にもデザイン的にも上手く再活用することで、より印象的な住空間を実現することが可能だと思っています。築26年の外国人仕様のマンションをリフォームした事例では、既存の間取りの制約から、玄関からリビングへのアプローチにどうしてもある程度の長さの廊下が生まれてしまうことが判っていました。デザイン的には片側にアガチスという木目のきれいな木材を張って、反対側にはキッチンの裏のスペースを活用したニッチ収納を設け、そのカウンター上には絵画を飾るギャラリーを作ってみました。木材を張った壁には、納戸の扉と、個室への廊下の扉があるのですが、扉にも同じ木材を張って、閉じた時には壁と一体になるようにデザインしています。築35年のペントハウスマンションのリフォーム事例では、長さが足りなかった廊下を伸ばしています。以前は直接リビングと寝室が扉一枚で接していたところを、プライバシーを確保するために廊下を伸ばし、その奥に小さな書斎を設けました。廊下空間は天井をわざと下げて、壁・天井の色と温かみを感じるベージュ系の色で塗装しました。廊下コーナーにはアンティークの家具を置き、その上部には間接照明ボックスを設け、印象的な演出の廊下を作りました。他にも廊下の曲がり角に子供の写真を展示するギャラリーを設けたり、廊下の突き当たり部分に壁全面の姿見鏡を張って、廊下が長く続くように見せたり、廊下の途中にペットコーナーを設けた事例など、狭い空間だからこその活用方法と、遊び心を感じるアクセントとすることができました。少し見方を変えることで、単調になりがちな廊下を、付加価値のあるすスペースに変えることも、リフォームならではの工夫といえると考えています。
T字型の突き当りに、子どもの写真をアレンジして飾った廊下。
写真のバックの壁は目を引くオレンジ色に塗装し、アクセントとしている
右側壁面にアガチス材を張り、左側に収納とアートを飾る
ニッチを設けた廊下。単調になりがちな廊下を、温かく楽しみのある空間にリフォーム
不要になった和室をダイニングへと改装するタイミングに合わせて、
廊下を伸ばしたリフォーム事例。伸びた廊下と書斎がプライベートとパブリックの
緩衝帯となっている
廊下コーナー部分のアンティーク家具には季節の花が飾られ、
上部に開けた間接照明ボックスには小物が置かれ、個性ある廊下へと変身
- 建築家
各務 謙司 (カガミ ケンジ) 1966年東京都港区生まれ。早稲田大学大学院終了後、ハーバード大学大学院に入学。留学修了後、94年にニューヨークのCicognani Kalla設計事務所勤務。マンハッタンの高級マンションのリノベーション、郊外の別荘等を担当する。帰国後、生まれ育った白金台に設計事務所を開設。古くなった建物にリフォームで手を加え、住まい方にあわせカスタマイズし、生き返らせることを活動の一つの柱としている。
カガミ・デザインリフォームhttp://www.kagami-reform.com/