2012年06月20日更新
マンションリフォームとインテリアデザイン
リフォーム設計とインテリアデザインという二つの仕事は、重なっている範囲も多く、似たような仕事と思われることが多いようです。自分でも、住宅の設計からスタートして、リフォームの設計に専門化してきましたが、当初はインテリアデザインもリフォーム設計の延長として、自分ひとりで簡単にできると考えていました。しかし、特に高級マンションのリフォームを数多く設計してゆくうちに、建築設計とインテリアデザインの違いについて考えさせられる機会が多くなってきました。
一般の方は、「住宅の建築家であれば、設計した室内空間も熟慮しているはずで、当然インテリアに対する造詣は十分に深い」という印象を抱かれていると思います。しかし残念ながら、昔の自分を省みても、それは誤解なのかもしれません。 雑誌やインターネットで建築家が手がけた住宅のインテリアを見ると、床は木質のフローリング、壁と天井は白系の塗装またはクロス仕上げとしていることが圧倒的に多く見られます。造作(作り付け)家具や建具も壁か床の色に合せて目立たせず、照明器具も存在感のないダウンライト(埋め込み照明)を採用する、といったいわゆる”シンプルモダン”を基調とするインテリアテイスト一が大勢なことが判ります。
しかし、マンションリフォームではこの”シンプルモダン”のデザイン手法が通用しないケースがほとんどなのです。ちょっと前までの新築マンションのインテリアの基本が似たようなテイストの”ナチュラルモダン”で、それに飽き足らない人たちが「自分のライフスタイルと今住んでいる空間がマッチしていないこと」を解消したいというのがリフォームの潜在的な問題だからなのです。くせがなく、誰もがイヤに思いにくいという理由で、世に広まった「シンプルモダン」と「ナチュラルモダン」ですが、あまりに普及してしまったことでその限界が見えてきたのかもしれません。
実際のリフォームの設計の際、インテリアを考えるときには以下の3つの方法を交えながら、お施主様と一緒に答えを探してゆきます。1.現在お使いの家具や飾っている小物、カーテンやラグなどからインテリアの好みの傾向を読み解く。2.インテリアの本や雑誌を見て貰い、好きなイメージをマークして貰い、潜在的に好きな要素を出してもらう。3.リフォーム予定の住宅やマンションのデザイン要素を読み込む。。3つの方法でインテリアを考えて、全てを寄せ集めてみると、一見雑多なイメージシートに見えてきます。しかし、夏にはサラリとしたフローリング床が好きな人でも、寒い冬には毛足の長いカーペットを好むこともあるように、一人のお施主様でも季節やタイミング(子供が生まれたり、歳をとったり)で色々なインテリアを好む傾向があるので、ご夫婦などではその違い(振れ幅)はより大きくなることは判って貰えると思います。このようにして、まずは多様な好みがあることをお施主様に認識して貰い、それらを取捨選択しながら、最終的なゴールを目指してゆきます。好きなイメージコレクションの中から、共通するテイストや、背反する要素を探り、言葉で説明したり、ショールーム等の実際の空間を巡りながら、重要なカギとなる「なにか」抽出して、それを基準として再度インテリアを組み立ててゆくという気の長い作業で、少しずつ満足度の高いインテリアが出来上がってゆくのです。
具体的な例で説明すると、六本木T邸では、ニューヨークのロフト空間というヒントが出てきたところから、大人の隠れ家をテーマに、室内の間仕切りにスチールサッシを使い、ウォルナットの造作家具やなめし革のソファーのコーディネート、そして壁のアート作品まで一つのテイストで纏めてゆくことができました。目黒S邸では、ミッドセンチュリーというキーワードを当初から貰っていましたが、好きなイメージ写真を見比べながら、木質系の板張りの天井がインテリアのカギとして浮かんできました。最適な羽目板が見つかった所から、他の仕上げ材やブラインドなども自然と決まってゆきました。
ホームページからの相談客に、なぜうちの事務所に相談しようと決めたのかを聞いてみると、ほとんどの人が「インテリアの雰囲気が気に入った」ことや「施主のライフスタイルを上手く空間に反映しているように思える」と答えてくれます。リフォームでは、インテリアの提案力が試されるというのは間違いないことだと確信するようになりました。
天井に張ったウォールナット羽目板がインテリアの重要ポイントの目黒S邸。
板張りの天井は、廊下を経て寝室まで伸びて、家の空間を纏めている
ニューヨークのロフト空間をテーマにリフォームした六本木T邸のインテリア。
素材は硬質感のある鉄製やしっとりとしたなめし革の家具を使い、全体に渋めの色で纏めている
リビングと書斎は特注のスチールサッシで間仕切られている。
このサッシも大人の隠れ家というテーマから発想された要素の一つ
赤いなめし革のソファーには、線の細いサイドテーブルを合せ、
ちょっとキャラクター性のあるスタンドライトを合せた。
後ろの壁のアート作品もコーディネートしている。
- 建築家
各務 謙司 (カガミ ケンジ) 1966年東京都港区生まれ。早稲田大学大学院終了後、ハーバード大学大学院に入学。留学修了後、94年にニューヨークのCicognani Kalla設計事務所勤務。マンハッタンの高級マンションのリノベーション、郊外の別荘等を担当する。帰国後、生まれ育った白金台に設計事務所を開設。古くなった建物にリフォームで手を加え、住まい方にあわせカスタマイズし、生き返らせることを活動の一つの柱としている。
カガミ・デザインリフォームhttp://www.kagami-reform.com/