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建築家リフォーム

2012年08月22日更新

洗面と脱衣の複雑な関係

 いまの日本の住宅では、洗面脱衣室は浴室の隣で、広さはおよそ一坪弱に納まっていることがほとんどです。基本となる要素は、収納が組み込まれた洗面台と鏡、洗濯機(乾燥機)で、広さに余裕があればリネン収納がある程度でしょう。広さの割には、洗面(顔・手を洗う、歯を磨く、お化粧をする)・脱衣(浴室を使う前後の服の脱着)・洗濯(洗い物と干す準備、まれに乾燥とアイロン掛けも)の三つの機能が、人を変えながら朝から夜まで行われ続けれるという、密度の濃い空間です。特に朝方や就寝前の時間は、(家族事情にもよりますが)複数の人が使おうとして、混乱することも多いのではないでしょうか?

 あまりに当たり前の空間なので、リフォームに際してもスペースを広げたい、収納を増やしたいという要望は多くあっても、それ以上の事を望まれることがあまりありません。しかし、リフォームの設計者として冷静に考えてみると、本当に三つの機能を一つの空間に押し込めておく必要があるのかという疑問に突き当たります。確かに、水を使うこと、湿気が溜まりやすいことなどは共通しているので、洗濯やアイロン掛けを専門に行うユーティリティースペースを作る余裕がなければ、一緒にするケースが多くなるのは理解できますが、他の方法を考えることができないのでしょうか。

 ビジネスホテルでは、スリー・イン・ワンと呼ばれる、洗い場のない浴槽と、トイレと洗面台がコンパクトに一つの空間にまとめられている空間を設けているケースがあります。外国人用住宅では、メインのバスルームでは、そこにシャワー室が加わり、シンクカウンターも長く伸びてダブルシンクになり、更に各寝室にひとつづつスリー・イン・ワンが設けられています。因みに、洗濯・乾燥機はキッチンの横に設けられることがほとんどです。

 洗面スペースと脱衣スペースを分けることも考えられそうです。特に思春期の子供がいる場合は、人が頻繁に出入りする洗面と、プライバシー度を高めた脱衣を分けることで、無用な干渉が少なくなりそうです。その場合、洗濯機能をどちらに持ってゆくかは悩ましい問題ですが、時間的には脱衣と洗濯はあまりかぶらないことと、脱いだ下着をそのまま洗濯機に入れたり、洗濯が終わった洗い物を浴室に付属した浴室乾燥機で乾かしたいケースなどを考えると、脱衣側に持ってゆくことが多いようです。部屋として洗面室と脱衣室が隣り合っていれば、洗濯もののアイロン掛けや折り畳みを洗面のカウンターを使うこともできるでしょう。ただし、カウンターの下に納まるドラム式の洗濯機を使うケースでは、洗面カウンターの下に設けることが可能なので、洗面側に設けるケースもありそうです。

 僕らがリフォーム設計するケースでは、脱衣と洗濯はコンパクトに浴室の横に作って、洗面カウンターを廊下に設ける提案をすることもあります。手や顔を洗ったり、歯を磨くという動作は、家族内であればそれほどプライバシーが必要ではない行動です。狭い空間に洗面・脱衣を詰め込むより、コンパクトな脱衣コーナーさえ別に設ければ、廊下に長いカウンター付きの洗面コーナーを作った方が、使い勝手はよくなります。換気扇の機能も昔に比べて確実に性能アップしているので、廊下に湿気が溜まることありません。他にも3つの機能から脱衣だけを取り出して一つの空間にした提案を作ったこともあります。この時は200平米を超える大きなお宅のリフォーム提案でした。脱衣だけでは広い空間は必要になりませんが、裸になることと絡めて、マッサージコーナーを作ってみました。人を呼んでのマッサージをお願いしても良いですが、進化しているマッサージチェアーを置いて、鏡を張った壁とストレッチができる程度のバーを壁に付けておくという考えでした。お風呂から出た後に使う下着も脱衣室に収納して置きたいという要望も増えているので、下着類のクローゼットを隣接して提案してみました。

 一般的には洗面・脱衣とひとまとめにされてしまう機能ですが、リフォームを決意した機会に合わせて、組み合わせを変えてみることによって、空間的にも機能的にもより家族にフィットした形があるのではと考えてみるのも面白いのではないでしょうか。


トイレと洗面とシャワーの変則的スリー・イン・ワン型洗面脱衣。
便器の性能も上がってきたので、もっとこのスタイルも増える可能性あり


大理石とステンレスとガラスで構成された、スタイリッシュで生活臭のない洗面脱衣室



各個室へ続く廊下に設けた洗面カウンター。
家族一緒の歯磨きや洗面で、使い勝手も良いとのこと




3mの長いカウンターのある洗面室。手前は化粧用スペースで、
奥の右側に洗濯機を納めた壁面収納を設けている




建築家
各務 謙司 (カガミ ケンジ)
建築家 各務 謙司

1966年東京都港区生まれ。早稲田大学大学院終了後、ハーバード大学大学院に入学。留学修了後、94年にニューヨークのCicognani Kalla設計事務所勤務。マンハッタンの高級マンションのリノベーション、郊外の別荘等を担当する。帰国後、生まれ育った白金台に設計事務所を開設。古くなった建物にリフォームで手を加え、住まい方にあわせカスタマイズし、生き返らせることを活動の一つの柱としている。
カガミ・デザインリフォームhttp://www.kagami-reform.com/

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