2012年10月17日更新
窓周りリフォームの考え方
先日、リノベーションの先進事例研修の為に、ニューヨークにでかけて、幾つかの超高級リフォーム事例や、工事最中の現場を見学してきました。日米のリフォームの違いを改めて観察すると、大きなところでは広さと天井の高さやリフォームに掛ける費用の問題(今回見学した中で、最大のものは800平米でリフォーム費用は約10億円でした)が圧倒的な差でしたが、ディテールの面では、窓周りの扱い方に日米の差を強く感じました。
元々日本では、木造が住宅の基本となっていたので、窓は柱と柱の間でなるべく大きく取るのが良いとされ、開け放つことで室外と室内が一体化するように、床まで届く掃出しの引違い窓が多くなっています。それに対して欧米では、壁構造の建物が基本なので、レンガ積み等の厚い壁に穴を穿ったイメージの窓で、サイズは当然小さく、縦長のプロポーションで上げ下げや開き戸の形式がベースになっています。
窓は光や風を取り込む便利な装置であると同時に、暑さや寒さの影響を受けやすく、安全面でも弱点となる個所でもあります。日本では、窓周りに障子と雨戸を用意することで環境の変化に対応していましたが、現在はカーテンやブラインドを使って視線を遮ったり、窓からの冷たい空気をブロックすることが多くなってきました。これらの内部スクリーン的要素は、従来は壁の厚みが十分にあって、それほど横幅がない縦長ベースの窓が多い欧米から輸入されたものなので、日本の横長の窓とは本来はあまり相性が良くありませんでした。かつ、昔は障子を開けた縁側でお隣さんと話したりと、窓が隣人とのコミュニケーションの「窓口」を担っていたのが、プライバシー感覚の発展と共に窓の用途も微妙に変わってきてしまい、窓際に人が寄ることすら少なくなってしまいました。欧米では、窓が社会との接点であることは変わらないので、窓際に腰掛けるベンチを設けたり、花などを飾る台を設けて、外から見える家のイメージをよくさせる道具としてうまく使っています。
実際にはどちらの考え方にも、環境や土地固有の気候、さらには家の作り方の大きな影響があるので、良いとも悪いとも言えませんが、なぜか日本の窓は安価で施工が楽なアルミサッシ製が多くなり、窓の上にカーテンボックスを作り、窓サイズにピッタリと合ったレースとカーテンという杓子定規で工夫のない窓回りが多くなってしまいました。
新しいマンションや高級住宅を見学すると、内装は高級な材料を使って凝っていても、窓が味気ないアルミサッシで、そこに取ってつけたようなのカーテンボックスがついていると、そこが妙に浮いてしまい違和感を感じてしまいます。
リフォームという手段でこれらの問題を解消する方法は幾つか考えられるのですが、それらを実際に試してみた事例を紹介してゆきます。
高輪I邸では、南側の壁に三つの窓があり、それぞれの窓に一つずつの部屋が並んでいました。リフォームで南側に大きなリビングダイニングを設けることになりましたが、幅も大きさも違う窓が不規則に並んでいるのでは、空間としての纏まりがありません。そこでそのうちの二つのベランダに面した掃出しの窓を一つのカタマリとして見せるように、大きな木製フレームで纏めてみました。窓の横にあったコンクリートの構造柱の出っ張り分を奥行きにして、幅広のフローリング材を大工さんに加工して貰い、ゲート状のフレームを作って貰いました。フレーム自体にわざと厚みを持たせ、その中にカーテンレールを埋め込み、梁を避けた手前には照明も埋め込んでいます。窓と窓の間の壁にも同じ材料を張ることで、全体が一つのゲート的なコーナーに見せることで、アルミサッシの冷たさや、バラバラに並んでいた不均一さを解消させることができたと思っています。
リフォームした時点でまだ築5年と比較的新築に近かった白金台S邸では、以前の記事でもご紹介した通り、隣のマンションしか見えない東側の窓は大胆に壁で塞ぎ、小さな窓が二つ残るだけとしています。さらに、その横にあるベランダに面した大きな連窓は、等間隔に立つアルミの方立(ホウダテ:窓の仕切り材・マリオン)で仕切られていました。窓の枠もパッと見には木製に見えますが、実際は木目柄のシートを張った枠でした。幾らカーテンで隠そうとしても、大量生産のアルミの味気ない素材感がレース越しに見えてしまうので、フローリングと素材感を合せた木製の枠を新たに組んで、方立部分も隠すことで、室内インテリアのグレード感に合わせることができました。
他にも、窓の内側に障子や紙を張らない障子(こうすると和風っぽさがなくなります)をはめ込んだり、窓の手前にベンチや飾り用のカウンターを設けるなどの方法で、より個性的で使い勝手がある窓回りを作る方法はあると思っています。見た目が地味なリフォームですが、こういった工夫で、窓回りが生活に彩りを加えて、楽しみが増えることをぜひ多くの人に体験していただきたいと思っています。
冷たく味気ないアルミニウム製サッシを、木製の付け枠でカバーして、
部屋全体のインテリアとマッチさせている
アメリカの古いマンションの典型的な窓の様子。
縦長に穿たれた上げ下げ窓の手前に、
壁の厚みを利用したベンチが作られている
二つのサイズの違う窓周りにゲート状の木製フレームを廻して、一つのデザインとして見せたリノベーション事例
カーテンを吊って、中央にテレビを置いて、窓際に植栽が置かれた様子を
見ると、上手く窓周りコーナーして活用されていることが判る
窓手前に障子を設けた事例。障子のデザイン次第で、和風にも洋風にも見せることが可能
- 建築家
各務 謙司 (カガミ ケンジ) 1966年東京都港区生まれ。早稲田大学大学院終了後、ハーバード大学大学院に入学。留学修了後、94年にニューヨークのCicognani Kalla設計事務所勤務。マンハッタンの高級マンションのリノベーション、郊外の別荘等を担当する。帰国後、生まれ育った白金台に設計事務所を開設。古くなった建物にリフォームで手を加え、住まい方にあわせカスタマイズし、生き返らせることを活動の一つの柱としている。
カガミ・デザインリフォームhttp://www.kagami-reform.com/