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建築家リフォーム

2012年11月14日更新

テレビの置き方・隠し方

 リビングダイニングの間取り変更を伴う大規模リフォームを設計する場合、早い時点でお施主様とテレビをどう扱うかを相談するようにしています。「テレビをどうしますか?」と質問すると、「普通に置いてください。」という返答が一番多いのですが、僕らがこれまで設計してきた住宅の写真を見せながら、テレビを生活の中心に置いていないことで、空間がより自由に見えることをご説明すると、それ以降の相談がしやすくなります。確かに、ちょっと前までの日本のリビングでは、テレビは必須の要素でした。リビングといえば、テレビを見る場所と言い換えても良いような状態でした。インターネットで「リビング+テレビ」のキーワードで調べてみると、「まずテレビの位置を決めてから、ソファーやコーヒーテーブルの位置を決めましょう」というアドバイスが多く見受けられます。
確かに、かつてのブラウン管テレビは、その独特の形やその奥行き寸法、更にはテレビの周りに配置されるべきビデオなどの録画機器やテレビゲーム等のこともあり、先に設置位置を考えておかないと、使いにくくなってしまうと考えられていました。昔懐かしい、部屋のコーナーにテレビが鎮座していたレイアウトです。しかし、今の時代はテレビはすっかり薄型になっており、チューナーや録画機器を離れた個所に設置できるタイプも発売されています。他にも、ライフスタイルの変化か、リビングで家族が揃ってテレビを囲む機会が減り、キッチンで料理をしながらテレビを見たり、ダイニングテーブルに座って、書き物をしながらテレビを見たりする状況も増えてきているようです。また、それに関連して、ダイニングには料理のレシピを調べたり、メールをチェックするためのパソコンが(今やそれもスマートフォンに変わりつつあるようです…)置かれ、テレビの重要度も相対的には下がってきたと感じています。

 以前の常識であったことも、テレビの性能向上やライフスタイルの変化で変わりつつあります。
かつての常識①:テレビはテレビ台の上や壁面テレビキャビネットの中に置くこと 
→テレビは壁に掛けて、DVDやコンバーター等は離れた個所に目立たないように設置も可能です。
かつての常識②:テレビはリビングの中心で、ダイニングやキッチンからも見える位置に置くこと
→ソファやダイニングの1カ所からテレビが見れれば良く、ダイニングやキッチンにコンピュータの設置場所を用意しておく方がより現実的になりつつあります。
 かつての常識③:テレビとソファーの間に人が通る動線を通さないこと
→家族そろってテレビを見るチャンスは減りつつあるので、人の動線が重なるかどうかより、横を通り抜ける際にテレビのデッパリが邪魔にならないような配慮が必要になってきました。
 かつての常識④:最新型でなるべく大型のテレビが望ましい
→最新型の方が機能や画像は充実しているので、確かに望ましいですが、大きければ大きい程良いというのは幻想になりつつあるのではないでしょうか?大きさだけが要望であればプロジェクターとスクリーンの組み合わせもありますし、凹ませたニッチにテレビを収納し、扉を作って見ない時は隠してしまう事例も増えています。

 僕らがお施主様の要求に応じて、テレビを工夫してレイアウトした事例を紹介しておきます。六本木T邸では、壁を凹ませてテレビを設置し、そのすぐ横にステレオ機器類置き場を用意し、更にはアイポッドスタンドもデザインした事例です。まだチューナーとテレビを無線で繋ぐテレビがなかった頃だったので、裏の配線関係を隠すために、この壁の背面にある洗面室側に収納を作り配線を繋ぎこむことができるように工夫しています。将来的にテレビを買い替えることを考えていると、配線の事も疎かにできません。デザインとしては、凹ませた段差の部分にステンレス板を張って、さりげなく凹みんでいることを強調させてみました。神戸M邸でも、やはり壁を凹ませて、テレビの存在感を薄めています。ただ、こちらは背面に配線を通すスペースがないので、写真の右下部分の木製収納個所まで配線を伸ばし、取外し式のパネル裏で線を結び、その横の収納にDVDなどを納めるように工夫した事例です。南麻布MT邸では、テレビ用のキャビネットを作っていますが、右側にある組み障子を引くことで、完全にテレビを隠すことができるようになっています。ただ、テレビを隠している時でも、横のスピーカーの音楽は聞きたいとのご要望だったので、障子の貼り方を工夫して、テレビ部分だけが上手く隠せるようなデザインとしてみました。



大型のテレビとステレオセットを造作収納に収め、和紙を張った組み障子の開閉でテレビを隠すことができる工夫。障子の和紙を貼った部分でちょうどテレビだけが隠れ、スピーカーの音は聞こえるようになっている


家族とより、友人とテレビを愉しむことを想定したこの家では、テレビの存在をどうやってスタイリッシュに見せるかが重要なポイントだった。人の動線と重なった位置なので、壁を凹ませて、ステレオと一緒に収納している


テレビ用ニッチの詳細。凹ませた段差部分にはステンレス板を張って、
さりげなく凹みを強調させつつ、可愛らしいi-pod置き場をデザインした


リビング正面の壁にテレビを配置した事例。右下の収納に工夫があり、その左部分は結線のためのボックスに、右部分にはチューナーとDVD、下は引き出しになっておりソフトを収納できるようになっている




建築家
各務 謙司 (カガミ ケンジ)
建築家 各務 謙司

1966年東京都港区生まれ。早稲田大学大学院終了後、ハーバード大学大学院に入学。留学修了後、94年にニューヨークのCicognani Kalla設計事務所勤務。マンハッタンの高級マンションのリノベーション、郊外の別荘等を担当する。帰国後、生まれ育った白金台に設計事務所を開設。古くなった建物にリフォームで手を加え、住まい方にあわせカスタマイズし、生き返らせることを活動の一つの柱としている。
カガミ・デザインリフォームhttp://www.kagami-reform.com/

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