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建築家リフォーム

2013年01月23日更新

ニューヨークの超高級リノベーション-1

 昨年、一昨年と2年連続してニューヨークにリノベーション最新事例の研究にでかけてきました。日本では一般的に1000万円以上の費用を掛けてリフォームをしたものは高級リフォーム、2000万円以上掛ければ超高級リフォームといわれています(2000万円という費用は、真っ新な土地に新築住宅が建つ金額ですから、大きな金額ですし、反対にそれ以上費用が掛けにくいことも良く理解できます)。ただ、この2回の視察で見学してきたアメリカの事例では、5000万円以上の事例も多く、億単位の中には10億円近くの費用(!)を費やしてアパートメントやコンドミニアムをリノベーションしている事例を見ることができました。

 日米のお金持ちのスケールの違い、そもそもの住宅の広さ違い、資産として考えた時の不動産価値の違い、自分の住まいに対する費用の掛け方の違い、セキュリティー・安全面や住み込みのお手伝いの有無等、色々な面での違いがあり過ぎるので、なかなか日米の高級リフォーム・富裕層リノベーションの違いを一概に論ずることは難しそうです。

 ただ、アメリカの富裕層の方々の住まいに対する心理的な状況、またリノベーションに対する価値観について、以下のようなポイントが見えてきた気が致します。

 ①家・インテリア=自己紹介
 見学させてもらったお宅では、どこでもご主人か奥さまが先頭に立って、玄関からリビング・ダイニング、キッチンやプライバシー度の高い寝室やクローゼットの中まで案内してくれました。どのような考えで設計者やインテリアデザイナーを選び、仕上げ材の詳しい仕様(スペック)や置かれている家具、壁に掛けているアートまでを丁寧に説明してくれる姿勢から見えてみたのは、家を紹介することで、自分自身を紹介するようなスタンスでした。間取りのあり方は家族に対するご夫婦の考え方を、キッチンは家族の食育を、子供部屋のあり方は子どもたちへの教育方針を示しているかのようでした。プロの設計者やインテリアデザイナーを総動員して完成させたリノベーションでも、きちんと細部までコントロールしているのは施主夫婦で、一つの大きな家族プロジェクトとして全力で、楽しみながらデザインを完成させてきた様子がうかがえました。インテリアの色使いや使っている素材、飾っているアートなどを詳しく説明してくださる様子は、本当にご自身の事を説明してくれているかのようで、とても印象的でした。

 日本では、基本的には住んでいるのはほぼ皆日本人で、取り立てて特別な出自や出身地を説明することはありませんが、人種のるつぼのニューヨークでは、自分のご先祖が欧州の貴族出身だったのかやどこで教育を受けてきたのか等を説明することは、とても重要なのだと思われます。米国では、パーティーなどで人を自宅に招くチャンスも多いでしょうから、そんな時に自分の家やインテリアを通じて、自分の社会的なポジションを紹介しているのに違いないと思えました。

 ②お金の使い方=生き方・暮らし方
 こちらも①の価値観の延長上にある考え方ですが、アメリカではお金持ちだからといって、全員が何億も掛けて豪邸を建てたり、リノベーションをしている訳ではありません。凄いお金持ちなのに、見た目も住んでいる家からも全くそのようなことが感じられないような人もいますし、実際に持っているお金以上に自分を派手に見せる人たちもいます。お金を掛けて完成度の高いリノベーションをすれば、実はそれを維持してゆくために、もっとお金が掛かるものです。例えば、家具やアートについても、リノベーションと同じ程度の費用を掛けないとインテリアにバランスが取れなかったり、大きな部屋が沢山あれば、当然一人では掃除も片付けもできませんから、住み込みのお手伝いやナニー(ベビーシッター)などの費用が掛かります。大きなキッチンを作って、立派なリビングやダイニングがあると、当然ながら人を招待する機会も増え、ケータリングや出張料理人も呼ぶことになります。そういった意味では、リノベーションをすることで、ここからどのような暮らし方、生き方をして行きたいかを社会に対して発信しているサインなのかもしれません。

 他にも、幾つか住空間への価値観やリノベーションの関心事の違いなどで気が付いた点がありますが、それらの紹介は次回以降に続ける予定です。



料理好きなご主人のモダンキッチンリフォーム。
3つの冷蔵庫とシンクにビルトインの最新調理機器と贅を凝らした作り


第二次大戦前の古く天井の高いマンションをリノベーションして、
モダンな家具とポップアートでコーディネートしたリビングルーム


2層吹き抜けのデュープレックスマンションをインテリア仕上げ材の変更中心にリフォーム。
アートや敷物の購入費用はリノベーションと同額以上掛けている


廊下の一角もきちんとしたコーナーとして考えられ、
アートと調度品もバランスよくデザインされている




建築家
各務 謙司 (カガミ ケンジ)
建築家 各務 謙司

1966年東京都港区生まれ。早稲田大学大学院終了後、ハーバード大学大学院に入学。留学修了後、94年にニューヨークのCicognani Kalla設計事務所勤務。マンハッタンの高級マンションのリノベーション、郊外の別荘等を担当する。帰国後、生まれ育った白金台に設計事務所を開設。古くなった建物にリフォームで手を加え、住まい方にあわせカスタマイズし、生き返らせることを活動の一つの柱としている。
カガミ・デザインリフォームhttp://www.kagami-reform.com/

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