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建築家リフォーム

2013年02月20日更新

ニューヨークの超高級リノベーション-2

 米国・ニューヨークの超高級リノベーション考察の第2回です。先月は①家・インテリア=自己紹介、②お金の使い方=生き方・暮らし方というポイントをご紹介しました。今月は別の視点でリノベーションを読み解いてみます。

 ③設計者・デザイナー=コンサルタント
間取り変更や設備交換といった工事だけのリノベーションであれば、アメリカ人はDIY(自力建設)でも簡単に工事をしてしまいます。建材や工具はプロと同じものが同じ価格で手に入れることが可能で、子どもの頃からDIYでの作業をしている人が多いので、ベランダのウッドデッキや壁の塗装くらいは、誰でも工事ができるイメージです。つまり、安く工事を仕上げたいのであれば、時間は掛かってもDIYという究極の選択肢がありますが、それでは、自分らしく、そして家族らしく、新しいライフスタイルを見据えたデザインを見付けてゆくことは困難です。時間とお金を掛けて、大規模のリノベーションを実施する人たちは、最初のステップとして雑誌やインターネットで好きなイメージ写真を探したり、ホテルやレストラン、リゾートなどを周ってインテリアの好みを考えてゆきます。でもそれをそのまま自宅に取り込んでも、誰かの真似でしかありません。それらのイメージを客観的な視点で一緒に見て、整理・取捨選択をして、自分たちらしさを見出してくれるコンサルタント的な役割をしてくれる設計者・デザイナーを見付けることが重要なポイントになってきます。

 リノベーション工事に対する技術力は勿論、リノベーションの実例が豊富(その分だけ富裕層の知り合いが多く)で、億単位の工事費用を任せることができる信頼度があって、自分たちと価値観を共有できて、そして何より自分たちのこと全てを相談できる、そんなところがパートナー探しの条件になってきます。相談内容は子供のころからのトラウマから先祖の話し、子どもたちの教育方針からリタイア後の暮らしのイメージまでと多岐にわたるので、相性は何より重要になります。何人もの建築家やインテリアデザイナーと面談して、本当に気に入った人がいた場合は、2~3年待ちでも構わずにお願いするケースもあります。大きなプロジェクトでは、お願いすることになった建築家(またはインテリアデザイナー)と一緒に、アートコンサルタントや照明デザイナー、ランドスケープ(造園)デザイナーや工務店までを探して、チーム作りから始めるようなスタイルもあります。ニューヨークのような大都市では、もっと細かく細分化された専門家もいるので、歴史的建造物の工事申請のスペシャリストや、建具のドアノブといった金物を専門にデザインするアーティストや、結露に特化したコンサルタントなどもいるので、10人くらいのチームに膨らんでしまい、その統合役にアドバイザーや弁護士が入ることもあります。

 このようにして、2~3年程掛けてリノベーションを実施してゆくわけですが、それだけの時間と費用を掛けるので、奥さま任せにしたり、自分だけで全てを決めることも難しく、④リノベーション=家族プロジェクトというポイントに繋がってゆきます。インテリアとアートは、富裕層の間では重要な教養の一つであり、人に招かれたときに、ある程度その家のデザインを読み取りながら会話を楽しむことがマナーとなっています(日本のお茶の世界と似たようなところがあるのではないでしょうか)。教養でありながら、学べば学ぶほど、世界観が広がるのがインテリアとアートの世界なので、家族一緒に高級ホテルに泊まったり、美術館を巡り、上流階級の人たちの知己を辿って、お金持ちの人たちの家を訪問しながら、将来のリノベーションに備えて、家具やアートを少しずつ集めてゆくことも楽しみの一つになってきます。自宅改装が終わった後も、人を招いてパーティーを頻繁にしたり、ちょっとずつ変わってゆく家族のイメージや好みに合わせて、部分改修しながら家族プロジェクトとして継続してゆくことになります。中には、子どもが生まれる度に、家を買い替えて、その度に同じデザイナーにリノベーションをお願いしている人がいるという話も聞いたことがあります。

 ニューヨークスタイル・リノベーションの日本と違った面を紹介するために、分かりやすく書いている部分もあり、すべてのケースに当てはまるものではありませんが、今後の日本の高級リフォームにも、少しずつこのような視点が入り込んでくるのではないかと思っています。



有名アーティストのアートを飾った、ギャラリー廊下。空間的には地味だが、
来客を案内する際には、一つのクライマックスとなる空間だ




プレウォー(戦前)に建てられたの高級ヴィンテージマンションでは、あまり大きな空間はないが、その分特徴的な部屋が作りやすい。モダンな家具とアートで囲まれたファミリーリビング


戸建住宅のリノベーション事例。アフリカンアートと、
それらに関連したキュビズム作家アートのコレクターのギャラリー的な住宅リノベーション



リノベーションに特化した設計事務所の打合せ室の様子。一つの住宅の中にも、
色々な空間を作り込むので、幅広いデザイン手腕とディテールや家具の知識が必要とされる


二層のデュープレックスマンション(延床面積:500平米程度)のリノベーション工事現場。
設計期間で1.5年、工事も8カ月ほどの時間が掛かる



建築家
各務 謙司 (カガミ ケンジ)
建築家 各務 謙司

1966年東京都港区生まれ。早稲田大学大学院終了後、ハーバード大学大学院に入学。留学修了後、94年にニューヨークのCicognani Kalla設計事務所勤務。マンハッタンの高級マンションのリノベーション、郊外の別荘等を担当する。帰国後、生まれ育った白金台に設計事務所を開設。古くなった建物にリフォームで手を加え、住まい方にあわせカスタマイズし、生き返らせることを活動の一つの柱としている。
カガミ・デザインリフォームhttp://www.kagami-reform.com/

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