2013年05月15日更新
リフォーム工事の失敗例-設備編
築年数が経った建物のリフォームでは、これまでも様々な失敗をしてきました。この原稿を書くにあたって、過去のリフォームリストを見ていると、失敗した経験は忘れられないもので、嫌になるほど色々な過去の苦悩を思い出します。失敗をしたと言っても、工務店の頑張りと施主の理解によって、何とかカバーできてきたものですが、これからのリフォームを考えてゆく上でも、失敗事例を見直して、整理しておきたいと思います。
ここでは、まず設備工事の失敗を見てゆきます。失敗には大きく3つのパターンがありました。1つ目は、既存図面を疑うことなく信用してしまい、現場の設備や配管ルートをきちんと確認していなかったために起こる失敗パターンでした。工事が始まってすぐの解体で、想像しない場所から重要は設備配管が現れることで判明するケースです。壁を取り壊して見たら、上下階を貫く共用のテレビ配線がその壁の中に配線されていたため、急きょマンション管理会社にお願いして、その配線を一端停めて貰ったうえで迂回配線をさせて貰った経験があります。事前の実地調査不足が原因といえるパターンです。判らないものがある際には、壁や天井を事前に壊してでも確認しておくことで回避することができる問題でした。
2つ目は設備容量の計算ミスが原因の失敗です。小さい号数のガス給湯器が入っていたので機器交換で号数を上げれば、床暖房も賄えるだろうと安請け合いしてしまい、痛い思いをしたことがあります。その時は、ガス管の口径の問題で号数を上げることができず、かといって電気の容量にも余裕がなく、ダイニングとキッチンは電気で、リビングはガスを熱源とする床暖房に振り分けて、何とか施主に勘弁してもらいました。水圧チェックをしないでタンクレス便器を取り付けたプロジェクトでは、取付け後に水圧不足で便器の水が十分流れないことが判り、便器の機種交換で何とかすることができました。ただ、無駄になった便器の引取り費用を負担することになった経験もあります。事前に設備や電気の容量をメーター類で確認して、どのくらいの容量が確保できそうかを各種設備会社と打合せをしておけば回避できる問題でした。
3つ目はインターフォンや便器の移設を工事の難易度を考えずに安易に計画して、最終的には移設ができなかったという例です。ロビー玄関と連動したマンションのインターフォンを移設する予定が、もしも移動で不具合が生じた場合の保障ができないと施工業者側に言われたことがあり、その時は造り付けの家具をインターフォンにかぶせるように設置して、何とか見映えを保ったことがありました。また、トイレを移設しようと便器の背部壁を壊してみたところ、共用竪管との接合部がそれまでのリフォームで半分つぶれており、取り外してしまうと二度と付けられないことが分かったこともありました。その時は事情を施主に説明して、プラン修正にて納得してもらいました。これらの問題は、設計段階では容易に見抜くことができない問題ですが、契約前にリフォーム工事のリスクを施主に十分に説明しておくことで、問題を大事(おおごと)にしないで済む問題だったと思われます。
他にも、過去の細かい設計ミスを挙げれば、正直キリがありません。限られた時間制限の中での調査では、ある程度想定外の事が起こることは仕方がないと考え、それらをリカバーできる範囲のミスに抑えることができるかが重要なのだと思っています。対処方法としては幾つかの事が考えらます。まずはギリギリの設計はなるべくしないことです。解体状況によっては床が少し上がったり、壁が少しフケてくる可能性があることを施主に説明しておけば、安心して工事を進めることができます。設備ルートが不明な場合は、初期費用(5~10万円程度)が掛かっても施主にお願いして調査解体をさせて貰いたいところです。解体後のリスクを減らすことにつながることを理解してもらい、設備の状況を把握することに努めたいものです。また、常日頃の工事現場から、設備工事の職人さんたちと仲良くして、判らないことを質問できる雰囲気を作っておくことも重要です。問題が発生した場合には、難しい現場を沢山こなしている施工業者には沢山の経験があるので、回避方法をアドバイスして貰える関係を築きあげておきたいものです。
以上、全ての失敗事例を設計・工事側の視点で書きましたが、リフォームを依頼するユーザー側はこのようなことが起こる可能性がある事を理解して、それでもきちんと対応してくれる設計者・リフォーム業者を探すことで、取り返しのつかない設備の失敗を防ぐことができるのではないでしょうか。
狭いPS(パイプスペース)の中に入り込んで、古い配管の材種や老朽化度を調べた上で、
どう対処すべきかを施主に説明・相談する慎重さが必要だ
解体した時点でも設備配管は複雑に絡み合っており、
どのような問題が隠されているのかは非常に判りにくい。
このケースでは、キッチンの排水の勾配が逆勾配になっていた…
時間を追加の費用が掛かるが、事前に調査解体することが失敗を避けるベストな方法だろう。
その調査結果を素人の施主にも判りやすく纏めた資料。
設計側は事前に設備図を入手・分析をして、矛盾している個所がないか、
問題点はなさそうかを予想しながらリフォームを計画することで、
失敗を防ぐことができる
- 建築家
各務 謙司 (カガミ ケンジ) 1966年東京都港区生まれ。早稲田大学大学院終了後、ハーバード大学大学院に入学。留学修了後、94年にニューヨークのCicognani Kalla設計事務所勤務。マンハッタンの高級マンションのリノベーション、郊外の別荘等を担当する。帰国後、生まれ育った白金台に設計事務所を開設。古くなった建物にリフォームで手を加え、住まい方にあわせカスタマイズし、生き返らせることを活動の一つの柱としている。
カガミ・デザインリフォームhttp://www.kagami-reform.com/
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