2013年12月20日更新
リフォームプランの考え方・作り方
リフォーム・リノベーションに特化してから、お手伝いした事例の数も相当増えてきたことからか、若手でリフォームに真剣に取り組みたい建築家やインテリアデザイナー相手のセミナーや、大手のリフォーム会社のプランナーの研修を頼まれることが多くなってきました。どこでも一番多く質問されるのが「リフォームプランの考え方・作り方」についてです。
プロ向けの教科書には、
①まずお施主さまのニーズを細かく聞き出して、優先順位を付けながら整理する。
②現場調査を同時に進めて、建物の特徴を掴んで、どの部分がリフォーム可能で、どこは触ることができないかを理解する。
③予算・グレード、スケジュールや工事の難易度を考えながら概略プランを纏める
といった流れが説明されています。この流れ自体を否定するわけではないのですが、僕らの事務所では、これとは全く別のアプローチを取ってプラン作りをしているので、その考え方と進め方をここで説明してみたいと思います。
お施主さまと実際にお目に掛かる前(つまり、リフォームのご要望内容を伺う前)に、事前にリフォームする住宅の間取り図を手に入れて案を練り始めることが重要です。
まず第1ステージとしては、徹底的にその間取り図の短所と長所を探し出して、それをどのように改善、或いは伸ばし手行くことができるかを考えます。悪い点の例えとしては、「改善することができない空間や使いにくそうな動線」、「収納スペース不足や長く冗長な廊下」などの欠点を洗い出します。良い点は「景観の良さや明るく伸びやかに感じる個所」、「テラスとの関係や風の通り道」といった感じです。悪い個所を是正してゆくリフォーム案は難しいものですが、長所をより伸ばす提案は、思ったよりも簡単に進めることができます。ただし、この時にあまり設備の技術的な問題や工事の難易度、費用などは考えないことが鍵となります。とにかくこの作業を通して、この住宅の間取りの長所と短所を知り尽くすイメージです。
第2ステージは寝室を一つ減らしたら、あるいは寝室を一つ増やすことができないかを考えてみます。同じ流れで、水廻りを大きく移動したら、廊下を最小にするにはといった、自分なりの課題を仮想で作って、トレーニングに取り組むようなツモリで、幾つかの妄想プランを作ってみます。この際、常に同じスケール(縮尺)の図面を作って、滑らかに描ける太めのマーカーペンを多色使いで、気楽にスケッチするようなイメージでプラン作りをすることが重要です。毎回同じ縮尺の図面でスケッチしていると、バランスの悪い部屋や使い勝手の悪そうな寸法が見えてくるのです。また、細かいペンで緻密に描くより、大胆に筆を使って描くことで勢いをつけるのです。とにかくお客様(上司?)に見せるリフォーム案ができないと、作れないこと自体がプレシャーになって、ますます考えが煮詰まってゆくことが多いのです。トレーニングプランを幾つか作ることで、頭の中のメンタルバリアーがなくなり、気楽に楽しくプラン作りができる効用があります。最初の説明にあった教科書的な進め方だと、全ての条件をクリアした案を作ることになるので、あまりに同時検討すべき条件が多くなってしまい、頭が働かなくなってしまう傾向があるのです。
第3ステージから先は時間的な余裕やプロジェクトの重要度などによって変わってきます。一つの方法は、ライバルとなるリフォーム屋さんだったら、どのような案を作るだろうかを考えてみます。これをやるためには、日ごろからホームページなどで他社の間取りを研究しておく必要があります。先ほどと同じ縮尺になるようにリフォームプランをプリントアウトしておいて、どのような傾向があるのか、どこにウリがあるのかを分析しておくのです。二つ目は、日ごろからリフォーム案件に限らずに面白い考え方の間取り図を雑誌類などからコレクションをしておいて、どれからのアイデアをこのプロジェクトに取り込めないかを当て嵌めながら考えてみます。キッチンと生活動線、子どもが楽しめる間取りなど、自分なりにテーマを幾つかに絞って、コレクションをしておくと、イザというときに役に立つものです。これらの作業を段階的に進めてゆくと、5~6通り程のリフォームプランができてくるので、それらを比較・合体しながら、設備などの技術的なことも検討し、真っ当なリフォームプラン1案とユニークなプラン1案を作る。大雑把ですが、こんな流れで僕らはリフォームプランを作っています。
事務所でコレクションしている間取り図集。リフォーム物件だけでなく、新築でも戸建でもユニークなプランがあれば集めて、同じスケールで確認できるデーターベースを作っている
最終的にお施主さまに見せるリフォームプラン。手書きプランを使うことで、これから先も気軽にドンドン変更しながらプランを推敲・昇華させるイメージ。
事前に頂いた間取り図に気がついた長所・短所を書きこみながら、どのようにリフォームすれば弱点を克服しながら、良い部分を伸ばせるかを考えたラフスケッチ
メールでやり取りする場合は、色分けしたプラン図に、注釈を入れて工夫した個所が判るようにした図面を用意
実際にリフォーム設計が進んだ場合は、一度纏めたものから、更にそのバリエーションを展開させて、幾つもの選択肢を増やすケースも
- 建築家
各務 謙司 (カガミ ケンジ) 1966年東京都港区生まれ。早稲田大学大学院終了後、ハーバード大学大学院に入学。留学修了後、94年にニューヨークのCicognani Kalla設計事務所勤務。マンハッタンの高級マンションのリノベーション、郊外の別荘等を担当する。帰国後、生まれ育った白金台に設計事務所を開設。古くなった建物にリフォームで手を加え、住まい方にあわせカスタマイズし、生き返らせることを活動の一つの柱としている。
カガミ・デザインリフォームhttp://www.kagami-reform.com/