2015年01月24日更新
投資用マンションのリフォームについて
マンションのリフォーム&リノベーションに特化して仕事をしていると、子どもたちの為に買っておいたマンションをしばらく賃貸にしたいので改装して欲しい、或いは幾つか持っていた部屋の一つを売却したいが、インテリアや設備が陳腐化しており販売価格が低く抑えられてしまいそうなので、うまく手を加えて販売できるように手助けして欲しいとのご依頼が多くなってきました。
住み手が、ご自分の住まいで快適に暮らせるように、費用と時間を掛けてリフォームの設計をしてゆくことが僕らの本業だと思っておりますが、以前のお仕事の繋がりなどでそういったご相談があった場合は、①時間的な余裕があること(改装完了までのスケジュールと共に僕らの時間的余裕があること)、②費用的には普通のリフォーム会社より割高になってしまうこと、③100平米以上の広さがあること(100平米以下だと僕らが普段お相手をしているお客さま層と異なるので、デザイン的強みが無くなってしまうので…)、そして④エリア的に僕らが良く知っていることなどを条件に、引き受けさせて頂くようにしております。
普段の居住用リフォームの仕事では、まず第一に考えるのがお施主さまの個性、暮らし方のご希望、そして第二として元々の部屋が持っている特性を引き出すことを考えて、細かい使い勝手のご要望や仕上げ材料の好みを伺って全体を纏めてゆきます。ところが、賃貸や売却用となると、最重要要素である「住み手」がいない状態で設計を始めなければなりません。そこで、まずどのような方が借りたいと思うのか、購入したいとと考えるのかの客層についてのイメージ作りが大事になります。この段階では、お施主さまに付き合いのある不動産仲介屋さんを紹介してもらい、その土地性、マンションの持っている雰囲気、部屋の広さや賃貸・中古分譲価格などから想像できるお客さま層について話し合いをいたします。新築ではなく、あえて中古のリフォーム物件を選ぶ方、ヴィンテージマンションであればその建物の雰囲気を好きな方はどんな方なのかを洗い出してゆきます。
次の段階では、部屋をザッと見たときに見えてくる長所と短所を挙げてゆきます。当然ながら、長所は伸ばして、短所は消してゆくようにするのですが、オーナーが自分たちの快適性に対して投資するのではないので、どれだけ費用を掛ければ、どこまで良くなるのか、そしてその有効性はどうなのかというコストパーフォーマンスに対する考え方が重要になってきます。不動産のマーケット感覚を磨くことも重要で、同じマンション内で賃貸物件や売り物件がある場合はそれらの部屋との違い、近隣ではどのくらいの坪単価でマンションが動いているかなどの情報も重要になります。
不動産物件としてインターネット等のメディアに載せるための「見栄え良い写真」が撮影できる見せ場を作る必要もあります。住戸数が比較的大きなマンションの場合は、同じマンション内での賃貸移動や賃貸だった方が購入というケースも多いので、そこでは内覧のストーリーを組み立ててからデザインを決めてゆく考えも出てきます。キッチンや洗面・浴室は嫌われないという意味では重要な要素です。古びてかび臭いようなもの論外ですが、ヴィンテージマンションに白くて無難なシステムキッチンやプラスチックっぽいユニットバスは嫌われてしまうので、どのように改装して見せるかは設計者の腕の見せ所です。
設計・施工のスケジュールがタイトなことや、費用の掛け方が自分(家族)用なのより厳しいのは当然のことなので、如何にスピーディーに部屋のそしてマンションの特性を掴むか、そしてリフォームのコスト感を掴みながら短期集中スタイルで設計を固めるか、材料のコストは全体的に抑えながらも見せ場で高級感を演出することなどは、リフォーム設計の最適なトレーニングにもなるので、これからもがんばってゆきたいと思っています(ただし、あくまでも個人のお客さまが相手のお仕事で、リノベーション再販業者のお仕事はお断りしております)。
玄関ホールは最初に目に入るところなので、見せ場として
デザインしたい。大理石やガラスを使うと効果的
築30年のヴィンテージマンションの再販売用リフォーム事例。
リビングとダイニングの空間の質を変え、梁は下がり天井で、柱は造作家具で隠している
新築マンションを賃貸用でも再販用で活用できるように資産向上リフォーム。部屋の間取り的にテレビの位置や家具レイアウトが限られているので、家具やアートまで空間に合わせてコーディネートした
投資用マンションでは、キッチンと洗面・浴室をどこまでスタイリッシュに仕上げるかが大きなポイント。不動産仲介のプロや施主とCPを考えながらの検討が必要
寝室や廊下はリフォーム費用を一番削りやすいところだが、嫌味がなく上質に仕上げたい
- 建築家
各務 謙司 (カガミ ケンジ) 1966年東京都港区生まれ。早稲田大学大学院終了後、ハーバード大学大学院に入学。留学修了後、94年にニューヨークのCicognani Kalla設計事務所勤務。マンハッタンの高級マンションのリノベーション、郊外の別荘等を担当する。帰国後、生まれ育った白金台に設計事務所を開設。古くなった建物にリフォームで手を加え、住まい方にあわせカスタマイズし、生き返らせることを活動の一つの柱としている。
カガミ・デザインリフォームhttp://www.kagami-reform.com/