2015年03月22日更新
マンションのインテリアファサード 展開図の検討
マンションリフォームに特化した建築家として活動していると、なぜもっと建築家がこのフィールドに入ってこないのかをもどかしく感じることが多くあります。知り合いの建築家に尋ねてみると、建物の個性・顔ともいえる外観(住宅であれば外見、ビルであればファサード(道路に面する建物の正面部分))をデザインすることができないので詰まらなそうなことと、建築家は一般にインテリアが苦手なので、インテリア勝負になるマンションリフォームに入り込みにくいとの意見でした。
確かに、僕らがマンションリフォームに特化した際には、戸建新築住宅を設計していた頃までは頻繁に作っていた模型を作ることがなくなって、外観デザインで勝負することができなくなったことを妙に寂しく感じたことを思い出します。しかし、最近は戸建住宅のファサードデザインに代わって、室内のインテリア壁、特にリビング・ダイニングなどの大きな空間のインテリアファサードをデザインすることに強い興味を持つようになりました。戸建の外観は近隣の街並みや雰囲気を読み解いて、室内と屋外を繋ぐ窓や建具を考えて、そこにクライアントの個性を演出するイメージで考えていましたが、リフォームでのインテリアファサードでは、手前の空間に置かれる家具や壁に掛けられるアートなどを考えながら、生活の舞台のバックグランドとなるシーンを想像してデザインを楽しめるようになってきました。
インテリアファサードを考える上で、もっとも重要なことは展開図での検討です。展開図とは、部屋の真ん中に立って東西南北を向いてそれぞれの方向の壁を図面化したものです。基本になるのは隣の部屋への扉や必要な箇所に配置したスイッチ類やコンセントなどですが、扉に合わせて造作家具を作ったり、壁に個性を与える特殊な仕上げ材やパネル割などのデザインを施してゆきます。壁の凹凸や照明の当たり具合なども三次元的に考え、素材の色味や建具の取手などまでを細かく検討してゆくことで、きれいで魅力的な壁面ができてゆきます。1枚の壁だけをデザインするのではなく、一つの部屋として他の3面も同時に考え、さらには扉を開ければ繋がってくる隣室空間まで想像しながら、デザインを考えてゆきます。白い大きな塗装面を作ったのであれば、その壁に掛けるアートを考えるか、手前にコンソール家具を置きそこにテーブルランプなどを飾ることまで想像を膨らませてゆきます。素材そのものに力がある大理石や突板等であれば、張り方や目地を考えればそれだけで十分なこともあります。
その空間で営まれるであろう生活にまで想像力を膨らませながらデザインされたインテリアファサードは、十分にその住宅の世界観を表わした魅力的かつ個性的な顔となり得ると思っています。
インテリアファサードを検討する展開図。
高さを合わせる部分の基準や、仕上げ材の違いを平面上で
判りやすく図示した図面
日本では珍しいパネル壁をデザインモチーフにした
インテリア壁面。建具や折り上げ天井も格子状にデザインしている。
リビングダイニングとキッチンを仕切る室内壁のデザイン。
両側からキッチンへと繋がる2枚の引き戸に合わせ、
中央部分をクロス張りのパネル壁として、高さを合わせた
造作家具を隣に作った
壁面中央にはキッチンへの出入り口と合わせて
扉を収納できる隠しバーコーナーを設けている。向かって右には
廊下へのガラス扉が、左にはテレビ・ステレオ類を設置する機能ニッチを
設けた
壁面型のキッチンと造作収納家具、
更には両端にある隣室への引き戸を一体としてデザインしたインテリアファサード。
2種類の突板とカラーガラスを使ってデザインしている
- 建築家
各務 謙司 (カガミ ケンジ) 1966年東京都港区生まれ。早稲田大学大学院終了後、ハーバード大学大学院に入学。留学修了後、94年にニューヨークのCicognani Kalla設計事務所勤務。マンハッタンの高級マンションのリノベーション、郊外の別荘等を担当する。帰国後、生まれ育った白金台に設計事務所を開設。古くなった建物にリフォームで手を加え、住まい方にあわせカスタマイズし、生き返らせることを活動の一つの柱としている。
カガミ・デザインリフォームhttp://www.kagami-reform.com/
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