2015年05月29日更新
リフォームを前提とした中古マンション探しについて
マンションリフォーム&リノベーションをご依頼してくださるお客さまは、大きく二通りに分かれます。それまで長く暮らしていた、或いは所有していて不便だと感じていた個所をリフォームなさりたい方と、新たに中古(まれに新築もありますが)でマンションを購入して引っ越しまでの期間にリノベーションをなさりたい方の2通りです。約20年前にアメリカ留学から戻ってきて設計事務所を始めたばかりだった頃は、前者が圧倒的多数でしたが、最近は90%が後者となってきました。
新規に中古でマンションを購入した方も細かく分けると、また二通りに分かれます。ご相談時に、すでにマンションをご購入契約済みの方と、購入契約前で本当にそのマンションを購入して、上手くリノベーションで自分たちにあった住空間にできるのかを迷っていらっしゃる方です。購入のご契約がようやくすんで、さあこれからリフォーム業者を探そうという方からのご相談は、想定しているデザイン&工事のスケジュールが短く(お引渡し後1~2か月後には引っ越したい)、費用的にも中古物件の購入費の1割程度の予算で床材や壁・天井のクロス張替えと設備機器の交換程度を考えていらっしゃる方が多いようです。築浅でかつ100平米以下の広さのマンションであれば、それで問題はないことが多いのですが、築古かあるいはそれ以上の広さのマンションとなると、簡単にはことが運ばないようです。当初は簡易なリフォームで良いと思っていても、僕らが現地を見させてもらって、間取りと暮らしに対するご要望に合わせたプランを考えると、それを実現するためにはスケジュールや予算が全く合わなくなってしまうケースが多々あります。
実は、そのようなミスマッチが発生してしまう理由の大きな一つが、不動産仲介会社の担当者の説明不足のようです。購入時に担当者が用意している参考リフォーム案と参考見積りが見当違いを生みがちなようです。床下や壁裏に隠された設備配管・配線類を全くいじらず、壁位置や建具も触らず、表面に見える仕上げ材の交換と、トイレや浴室・キッチンなどを最低限レベルの仕様のものに取り換える程度の案がほとんどなのです。考えてみれば、不動産会社としてはお施主さまの総予算を考えて、なるべく大きい金額をマンション購入に充てて貰いたいので、リフォーム額を少なくみせるのは当然の話なのです。
それに対して、中古物件を購入決定前にご相談がある方は、そのことも事前に説明しておくことができるので、スケジュールと予算を適正に組んだリノベーションができやすくなります。不動産購入額とその後の改築工事に掛ける費用のバランスを取りやすく、スケジュール的にも契約検討時から間取りの相談をして、契約と決算・引渡しのタイムラグを上手く使って、その間にデザイン設計を進めてゆき、お引渡し後なるべく早くにリノベーション工事を着工することで、スケジュールの無駄を省くことができるのです。ただ、このメリットは書籍やインターネットで良く書かれているので、ここでの詳しい説明は省きます。
専門的なマンションリフォームに詳しい宅建業者はまだまだ少ないので、事前に専門家を探して物件探しから協力して貰うのが絶対的に良いかというと、それはそれで問題がないこともあります。建築施工側は自分の取り分を増やすために、安い不動産物件で高額なリフォーム工事費を取ろうと企む業者もいます。経験が十分でない設計者に依頼すると、不確定な要素に対しては(責任を取りたくないので)悲観的な意見ばかりを述べる人もいます。リノベーションの設計はうまくても、10年後の物件の不動産的な価値に対してのアドバイスが的確でない場合もあります。
僕らも以前は新規の仕事が欲しかったので、物件探しや購入すべきかどうかの最後の判断の時に中古物件の調査に無料で伺っていました。しかし今は、そのようなご依頼も多く、不確実な所見でお施主さまにご迷惑をお掛けしたくないので、どのくらいまで詳しく調べるかによってレベルを設けて、きちんと費用をご請求するようになりました。
それでは何が正解なんだ、ということになりますが、不動産仲介にしてもリフォーム会社にしても、同じレベルのマンションリフォームの経験が豊富で、購入者の価値観を十分に理解してくれて、購入前には費用が別途掛かったとしてもフェアな現状分析をしてくれる会社・担当者を探すことに尽きるのではないでしょう。
キッチンを移設することになった場合、床下の排水管の経路と同様に
天井裏に隠れたレンジフードの
ダクト経路は非常に重要だ
その場で見たことをそのまま依頼者に伝えるより、一度持ち帰って図面と現状の整合性を見て、
写真と所見を報告書の
形に纏めてから購入すべきかどうかのアドバイスをするようにしている
もっとも重要なのは、マンションの現状の間取りとお施主さまの生活スタイルのミスマッチ部分を
リフォームで直すことが
できるかなので、リフォーム案の事前の検討が最も重要となる
管理室に竣工時の図面が保管されていれば、
現地を見る前になるべく詳しく見ておきたい。
写真で記録を取って、
現状と違っている個所がないかを確認しながら調査してゆきたい
床・壁・天井のすべての点検口は開けて、中を覗くようにしている。
建物の作り方や配管などの健康状態を
確認することができるからだ
- 建築家
各務 謙司 (カガミ ケンジ) 1966年東京都港区生まれ。早稲田大学大学院終了後、ハーバード大学大学院に入学。留学修了後、94年にニューヨークのCicognani Kalla設計事務所勤務。マンハッタンの高級マンションのリノベーション、郊外の別荘等を担当する。帰国後、生まれ育った白金台に設計事務所を開設。古くなった建物にリフォームで手を加え、住まい方にあわせカスタマイズし、生き返らせることを活動の一つの柱としている。
カガミ・デザインリフォームhttp://www.kagami-reform.com/
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