2015年08月05日更新
「根っこ」が植物の健康をつくる
マンションの植栽管理というと、剪定・刈込・除草といった作業が主な項目になっています。施肥という項目もありますが、大抵、化成肥料を散布して終了というもので、定期的に土を掘って、土や根の状態を調べ、必要であれば土壌改良をするという、「根や土に対する作業」は、なかなか行われていないのが現状です。
植物の病害虫を防ぐために一番重要なことは、当たり前のようですが、「植物を健康に育てる」ということです。そもそも、健康な植物には、病気に対する抵抗性や、害虫に喰われてしまったとしても、それほど大きなダメージを受けないで済むという力が備わっています。人間と同じですね。
植物を健康に育てるための方法は、その環境に合った樹種を選ぶとか、日当たりや風通しの良い場所で育てるなどいろいろありますが、今回は、根っこの部分に注目してみたいと思います。
植物を支えているのは、みなさんもご存じのとおり、根です。自然界では、大抵の植物は、幹(茎)や葉の「地上部分」と、根の「地下部分」とは、ほぼ対称の形をしているといわれています。今度、屋外に出たときに、ある樹木の下に立ってみてください。その何メートルか先にある枝先の下、そのあたりの地面を掘ってみると、根の先端が現れるはずです。根がしっかりと張ることができていないうちに枝を伸ばしてしまうと、強風が吹いたときに、倒れたりしてしまいますよね?
こんな風に、「この木はどこまで根が張っているのだろう?」と意識して木を見てみると、「あれっ?」と気になる木も発見できるはずです。例えば、第1回目で事例として紹介した、歩道の舗装を盛り上げてしまっている桜の根。それから、枝が左右に張っている割には、狭い花壇に植えられている生垣。シンボルツリーとして、一番大きく育ってほしいのに、周囲を踏み固められてしまっていて、イマイチ大きくなれていない木など。これらの木の、葉や枝の状態はどうでしょうか?色艶よく、イキイキと育っていれば特に問題ありません。しかし、枝の先端の方が委縮したように枯れてしまっていたり、本来の大きさよりも葉が小さかったり、枝の先端だけには葉がついているけれど、内側は枯れこんでしまっていたりしたら、要注意!「根詰まり」という状態が疑われます。
話はちょっとそれますが、自宅に鉢植えの観葉植物が何年も植え替えずに置いてあることはないですか?その植物の、葉っぱの色は黄色っぽくなったりしていないですか?葉は、購入当初と同様に、ふさふさとよく繁っていますか? もし、葉の色が黄色っぽくなってきていたり、葉の繁り方が以前よりも良くないなと思ったら、それは、「根詰まり」の状態です。一度、鉢から出して、古くなった根を取り除き、新しい土に植え替えてみてあげてください。そうすると、根がリフレッシュし、再び栄養を吸収しやすくなり、しばらくすると、葉もイキイキし、見た目も健康そうになってくるはずです。このような植え替え作業は、できれば1年に1回、少なくとも、2年に1回は行うことが理想です。
根の状態が良くないと、水分や養分をうまく吸収することができません。一方、葉では、光合成を行いながら、水分の蒸散も行っています。水がうまく吸いあがっていないときに、葉が水分を蒸散してしまうと、バランスを崩してしまいますよね?それを防ぐために、植物は自ら葉をふるい落とし、水分の蒸散量を減らそうとします。ですから、「葉の繁り具合が悪い」=「根の状態が悪い」のではないかと推測できるわけです。
さて、地植えの植物も同様です。マンションなどの人工的な空間では、植栽部分が限られており、巨大な鉢植えと同様の状態になっているケースが大半です。ですから、鉢植えと同様根詰まりを起こしてしまっているケースをよく見かけます。ただ、地植えの場合は、植物を掘り上げて植え替えるということは困難ですので、周りの土を取り出して、新しい土に変えたり、土の一部を交換するという方法で根詰まりの解消をすることができます。
また、根がしっかりと張れていない状態で、枝葉のみが繁っている場合、大風などの強風の際の倒木の可能性があったり、弱った枝がいつまでも剪定されないでいると、枝の落下の可能性があるなど、病害虫の被害のみでなく、物理的な危険の可能性も出てきてしまいます。
ということで、「病害虫の防除」といっても、薬剤を散布するだけではなく、根っこも重要なのですね。次回も引き続き、目に見えない地下の部分のお話をしようと思っています。
狭い花壇に植えられている生垣。定期的な刈込作業は行われていたが、根の部分は手つかずだったために、葉の繁り方に勢いがなくなり、枯れこむ枝も増えてきてしまっている。
- 株式会社Q-GARDEN代表取締役
小島 理恵 町田ひろ子インテリアコーディネーターアカデミー 講師
横浜生まれ。信州大学農学部森林科学科卒。「ガーデンづくりを通じて、地域の景観・環境の向上に貢献する。」をポリシーに、その環境に合った植栽プラン、植栽内容に合った土づくりにこだわり、ガーデンの「デザイン」→「施工」→「年間管理」を行っている。植栽に関する知識や経験の豊富さなどから、ミュージアムなど大規模なガーデンの年間管理の依頼や、コンサルティングなどの依頼もある。2014年4月『はじめてでもカンタン! おいしいベランダ野菜』を出版。