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地域と人とつながる住まい 都心の古民家を7人でシェアする 松陰コモンズ

 この建物が建てられたのは江戸時代末期。鈴木家7代目当主の鈴木誠夫さんが生まれ育ち、御母堂の富子さんも2000年12月に亡くなるまでこの家に暮らしていた。いわば、21世紀まで現役の住宅として活躍している古民家だ。

 鈴木さん自身はその数年前に隣に新築した邸宅に移っており、「この家は取り壊すしかない」と思っていたという。相続に関連して世田谷区に相談を持ちかけたところ、街づくりに携わる3社から土地の活用についての提案があった。そのうちにあった環境共生のコーポラティブハウスとして土地を売却し、結果として残されることになった古民家を5年間の期限付きで居住者が共同で生活する場として貸し出すことに。2002年3月、NPO法人コレクティブハウジング社の事業として「松陰コモンズ」プロジェクトがスタートした。

 ダイニングキッチンと居間、各10畳の続き間と広縁を中心に、大小7つの個室と浴室、シャワールーム、3つのトイレなどで構成されたこの家は、約80坪の広さがある。それまでの生活用品などを処分したほかは、個室にカギを付けるなど改修は最小限にとどめ、住まいの歴史をなるべく生かすことが心がけられた。

 集まった7人の居住者は年齢や職業もばらばらだが、古民家ならではの味わいや、その歴史を引き継ぐという意義、またひとつの家をシェアして住むという取り組みに魅力を感じた人たちばかりだ。

 当初からの居住者のひとりである、野口朋子さんは「最初はこの新しい取り組みに各自で強い思い入れがあったのかもしれません。でも、最近は7人それぞれにシェア居住を心地よくこなせるようになってきたように思います」と話す。スタートから7年が経過し、メンバーも入れ替わるうちに生活のスタイルが馴染んできたのかもしれない。

 この松陰コモンズの特徴のひとつは、ひとつの家の中で居住者が個々に独立した生活しつつ、日常の暮らしの仕事をお互いに分担しあうことで、ひとり暮らしにはない、豊かな場を生み出すとういうことにある。居住者は組合をつくり、快適な暮らしをするために運営方法を話し合い、責任を持ってこの家での生活を営んでいる。


敷地内には鈴木家の人々が長年にわたって手をかけてきた植栽が。門扉、木々などが渾然一体となって、その場ならではの味わい深い雰囲気を醸し出している。松陰コモンズのプロジェクトでは、この環境の維持を大事にしている。


7人の居住者によって運営される小さなコミュニティ。家族ではない、独立した個人同士がお互いに無理なく関わり合いながら、ひとつの暮らしを成立させている。

 ミーティングは月に1回だが、問題があればその都度、みんなで話し合う。「お互いを尊重しつつも我慢しすぎないことが大切ですね。それぞれの生活は変化していくものなので、ルールは柔軟に更新していっています」と野口さんは説明する。

 キッチン、浴室などは共用。生活時間が異なるので、お互いの様子を見ながら、自分の都合のいい時間に使う。調味料やトイレットペーパーなどの共有物の買い出しや、ゴミ出し、掃除などは当番制だ。「室内は80坪あるので、全員家にいてもそんなに互いの存在感が気になることはありません。続き間は共用の場なので、広縁のイスに座ってゆっくり外を眺めたり。都内でこんなに落ち着いた暮らしができるというのは嬉しいですね」(野口さん)。

 この続き間は、居住者のくつろぎのスペースでもあるが、パブリックな場として使用されることも想定されている。地域の子育てサークルが交流したり、ミニライブや落語会が開催されることもしばしばだ。

 松陰コモンズは、7人の居住者のコミュニティであると同時に、外にもつながり、もっと大きな輪の一部としても機能する可能性を持つ。このコレクティブ居住のスタイルは、大家の鈴木さんとの契約上、来年3月にはいったん終了となるが、ここでの生活を経験した居住者や一度でも訪れたことのある人々には、新しい住まいの形が強く記憶されたことだろう。

 多様な人と関わりながら住む。そこから生まれる暮らしの文化は、多様性を認める社会へとつながり、心のゆとりと精神の豊かさを育むのではないか。松陰コモンズからは、そんな可能性と夢が発信されている。(この記事は2009年7月22日に公開したものです)


続き間の和室を開放して行われたミニライブの様子。ひとつの家の中に、居住者のプライベートスペースとパブリックスペースが同居することで、コミュニティが外部へ広がっていく可能性を生み出している。

取材協力/NPOコレクティブハウジング社
http://www.chc.or.jp/

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