ある晴れた休日。近所の公園やお寺の境内などに三々五々、老若男女が集まってくる。持ち寄った料理や飲み物をいただくもよし。挨拶を交わして雑談に興じるもよし。みんなの話に耳を傾けて笑っているだけでもいい。居心地がよければずっといてもいいし、用事があれば好きな時間に帰ればいい。「隣人祭り」は、自分のスタンスで参加することができる。
「全員と仲良くしようとか、頑張って盛り上げようとかしなくていいんです。大切なのは、同じ地域や職場で生活している者同士が顔見知りになる機会を持つこと。最終的に”隣人関係っていいものだな”という実感が得られれば成功だと思います」と説明するのは、「隣人祭り」日本支部代表の植月縁さん。
日本でも昔から地縁を結ぶものとして、町内会やお祭り、お花見といった行事が親しまれてきたが、近年はあまりうまく機能していないケースが多い。いつも参加する人が同じだったり、新参の人が参加しにくかったり。公園ではママさん同士が固まり、地域の集会所に来るのは常連の高齢者だけだったりと、世代間を超えた人間関係の場がなくなってしまっているのが現状だ。
「担が大きいとみんな敬遠してしまいますし、次もやろうという気にはなりにくいですよね」と植月さん。だから「隣人祭り」では「無償で参加できること」がルール。
ヨーロッパの「隣人祭り」ではホームパーティーのような雰囲気で一緒に食事をしたり、お茶をすることが多い。ただ、知らない人同士が交流することが目的になっていれば、一緒に何かをつくったり、スポーツをしたり、バザーを催したり、集まる人たちの好みや、場所の条件に合わせて自由に決めてよい。
2008年5月に初めて開催された「隣人祭り」の会場は新宿御苑。付近のマンションの住民や飲食店のオーナー、OL、ホスト、留学生と延べ200人のさまざまな参加者が集まり、青空の下で交流を深めた。
「べたべたした人間関係は苦手。でも同じ建物に暮らす人と”おはよう”くらいは言いたい」
「お祭りや自治会の集まりには興味がない。もっと気楽で、楽しく集まれるなら参加したい」
「ふだんは必要なくても、いざというときは声をかけられる相手が近くにいてほしい」
と参加者のモチベーションも多種多様だ。「お互いがほんの少し、歩み寄るきっかけになれば」と植月さん。
「隣人祭り」は、原則としてだれでも自由に開催し、また参加することができるが、「隣人祭り」のコンセプトに則ってその場をまとめる世話役「コンシェルジュ」の存在が必要だ。近くに暮らす人、働く人ともっとつながりたいと思う人であれば、だれでもコンシェルジュになれる。
新宿のマンション住民による「隣人祭り」は、自分たちの住む建物の屋上が会場に。花火大会の見物をしながら、年齢も職業もさまざまな隣人たちが集った。
(上)2008年10月に開催された築地本願寺での「隣人祭り」の様子。70人以上の老若男女が、持ち寄った飲食物をお裾分けしながら交流した。
(下)世代を超えた組み合わせで会話をする機会は、現在はなかなか得られない。当日は築地本願寺の僧侶も参加し、雅楽の演奏も行われた。
「隣人祭り」日本支部にコンシェルジュとして登録すれば、より広くより深く「隣人祭り」の活動に加わることが可能だ。すでに全国で70人以上が登録されているという。
「まずは近所の知人に声をかけて集まってみては? コツは、屋外のオープンスペースを会場にすることです。誰でも立ち寄りやすいですからね」(植月さん)。遠巻きにその様子を眺める人がいれば、それだけでも成功。「これ何の集まりですか?」と話しかけられたら大成功。大切なのはお互いを認識すること。他人以上友達未満の関係がそこから始まる。
今年の5月23日「日本における隣人祭りの日」には、日本全国で「隣人祭り」が同時開催されるとか。あなたの近所でも新たな人の輪が生まれているかもしれない。
取材協力 「隣人祭り」日本支部 http://www.rinjinmatsuri.jp/main/