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より豊かに、自分らしく生きるために。 あえて賃貸という選択

建築家による賃貸住宅の新しい提案

 ひと頃大ブームを巻き起こした「デザイナーズマンション」。居住空間としての美しさや住み心地まできちんとデザインしたものから、ブームに乗じて表層的なデザインだけをなぞったものまで、まさに百花繚乱。定義の曖昧さもあり、「デザイナーズ」に対するネガティブイメージを持ってしまった人も多いのではないでしょうか。現在はそうした玉石混合の供給は淘汰されつつあり、デザインの本質を捉えた良質な空間提案を企画する会社に、再び注目が集まっています。

 タカギプランニングオフィスは、1997年の創業以来一貫して「建築家が設計した賃貸住宅」にこだわり、これまでに100棟近くプロデュースした実績を持ちます。

 「美しくて住み心地がいい、自立した大人が満足できる豊かな生活空間を提供するというのが、私たちの基本的な考え方です。そのために、ワンルームでも10坪を目安に広さを確保し、きちんと料理できるキッチンスペースを設けるようにしています。逆に、限られた空間の中で必ずしも”バス・トイレ別”に拘らないなど、一般の賃貸住宅とは違う独自の尺度で居住性を追求しています」(同社 チーム統括 野口さん)

 かつては、先端を走るクリエイターやデザイン事務所、外資系企業に勤める富裕層が入居することが多かった同社の賃貸住宅。「最近は普通の会社員の方がとても増えています。皆さんの空間デザインに対する感度が高まったことに加えて、持ち家にこだわらず、やわらかいスタンスで住まいを考える方々が増えていると実感します」(野口さん)

 賃貸住宅は、敷地の形や周辺環境、居住者の年齢層や生活志向、事業としての収益性など、パズルのように各々異なる条件と制限のなかで、建築物をつくらなければいけません。立地の個性を最大に活かし、人々が求める豊かな生活空間や魅力的な外観を持つ良質な賃貸住宅を…と考えると、建築家の視点と設計力は大いに期待できる部分です。

 「いきなり注文住宅を建築家に依頼するのはハードルが高いと思う人でも、賃貸住宅なら気軽にその空間を体感することができます。住んでみて、すっかりその建築家の作風が気に入り、設計依頼をして家を建てた方もいらっしゃいます。また、入居された方同士、デザインに対する感性を共有しているので、自然発生的に入居者間のコミュニティができているところもあるようです」(野口さん)

 最近は40代以上のシングルや、分譲マンションを売却して入居する団塊世代の夫婦なども増えているとのこと。多彩なライフスタイル、ひとりひとり異なる人生観を持ち、生活空間にも妥協しない人々の「持ち家にこだわらない選択」。つかずはなれずのコミュニティを楽しみ、プライバシーに守られた豊かな暮らしを手に入れようという、スマートで軽やかな思想には、多くの人が共感するのではないでしょうか。


美しさと住み心地を追求した賃貸住宅は、永住も十分検討できる完成度。
写真左:神楽坂通り商店街から徒歩2分の「kif(キフ)」(空室有)
写真右:牛込神楽坂駅徒歩6分の「Vague(ヴァーグ)」(空室有)

取材協力:株式会社タカギプランニングオフィス  http://www.t-p-o.com/

ライフステージにあわせて住み替える「ちょうどいい家」

 かつて、「住宅すごろく」という言葉が業界関係者のなかで語り継がれていました。賃貸アパート → 賃貸マンション →分譲マンション →郊外の庭付き一戸建て…と、年齢を重ねるにつれ住宅がステップアップしていくことで、多くの人にとって「上がり」は庭付き一戸建てだと考えられていました。

 この「すごろく」は、今から考えると、地価も収入も上がる右肩上がりの高度成長期ならではの産物。その後の地価高騰やバブル景気、バブル崩壊を経た現在、「買替えによる住替え」は大変困難な状況になっています。

 同時に、「賃貸→購入」の一方通行の住替えパターンは、それぞれのステップで居住者の固定化が進み、さまざまな問題を抱えるようになりました。

 不動産価格が下落し、古い家を売却してもローンを完済できなかったり、思うように収入が増えずより広い住居に買い換えられない中高年世代。不安定な経済情勢で、広い住宅への住替えを躊躇する子育て世代。そして、「すごろく」の上がりだった庭付き一戸建てに住むシニア世代も、子供が独立して老夫婦二人暮らしとなり、広すぎる家での暮らしに不自由を感じるようになってきました

 こうした世代間の「住まいのミスマッチ」を解消し、ライフステージごとの住替えを促そうと、現在では複数の公的機関が、シニア世代が所有する一戸建てを子育て世代に賃貸する支援策を打ち出しています。

 そのひとつが「一般社団法人 移住・住みかえ支援機構(JTI)」の「マイホーム借上げ制度」。一定条件をクリアした住宅(一戸建て・マンション・タウンハウスいずれも対象)をJTIが最長で終身借上げ、子育て世代などに転貸しています(右 図1)。

 借り手側は敷金・礼金不要(仲介手数料1ヶ月と10,500円の事務手数料は必要)で入居でき、月額賃料の30%を支払えば連帯保証人が不要になる「保証人不要システム」も利用可能。賃料は周辺相場より10~15%低く、リフォーム・DIYが自由にできるなど、通常の賃貸住宅より融通が利くのも大きな魅力です。

 注意しなければいけない点は、3年間の定期賃貸借契約だということ。3年後に再契約をすることができますが、オーナーの都合でできない可能性もあります。また、制度がスタートして間もないため物件数が少なく、希望する地域によっては物件がないこともあります。

 また、「財団法人 日本賃貸住宅管理協会 住替え支援センター」の「住替え支援制度」では、ミドル・シニア層を対象に、マイホームの賃貸化や住替えに関する情報提供を行っています。同制度の特徴は、マイホームを賃貸すると共に、自らも賃貸住宅に入居するミドル・シニア層のために、”住替えアドバイザー”による相談サービスがあることです。

 「便利な都心のバリアフリー住宅に住みたい」「海外に移住したい」「今と同じ地域で、もう少し駅の近くに住みたい」「子供の家の近くに住みたい」「自立型シニア向け住宅に入居したい」など、新しい賃貸住宅暮らしに対する要望は千差万別。住替えアドバイザーはこうした質問を受け、経済的な面も含めて希望に合う賃貸住宅や福祉施設の情報提供を行っています。



【詳細・問い合わせ先】
一般社団法人 移住・住みかえ支援機構(JTI)  http://www.jt-i.jp/

財団法人 日本賃貸住宅管理協会 住替え支援センター  http://www.sumikae.jpm.jp/object/

■取材ノートより
 本文中の「住宅すごろく」が成立しなくなったもうひとつの原因は、単身世帯の増加かもしれません。今回の取材で強く感じたのは、「夫婦」「家族」単位でなく、「自分自身」で住まいを選択する人が増えたということ。タカギプランニングオフィスの「10坪を目安に広さを確保し、きちんと料理できるキッチンスペースを」は、まさにそうした人が求める生活スペースです。
 住宅の超寿命化は時代の流れ。ひとつの住居を住み継いでいくことは、今後それほど珍しい光景ではなくなるでしょう。長い人生を豊かに過ごす場所として、さまざまなライフステージで住み替えられる賃貸住宅の選択肢が、もっと増えていくことに期待しています。

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