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新しい価値観でつながる二世帯住宅 三つの世代で暮らしてみれば

時代とともに変化する二世帯住宅のかたち

 日本に「二世帯住宅」という言葉が登場したのは今から約35年前、1975年のこと。ハウスメーカーの旭化成ホームズ(ヘーベルハウスのブランド名で展開)が「二世帯シリーズ」という商品を発表したことがはじまりでした。その後同社は本格的に二世帯住宅の研究を開始。1980年には社内に「二世帯住宅研究所」を開設し、日本における二世帯住宅の本格的普及めざし活動をスタートさせました。今回は長年にわたり二世帯住宅を見続けてきた同研究所にお話を伺いました。

 同研究所の主席研究員である松本さんによると、35年前までの同居スタイルは「いわゆる農村型のべったり同居」。ひとつ屋根の下で、親世代と子世代が空間も時間も全てを共有するというのが一般的でした。

 しかし次第に都市化が進み、親も子もサラリーマンという給与取得世帯が増えるにつれ、変化が見られるように。別々の財布を持つ世帯の同居スタイルとして、生活空間も分離してそれぞれマイペースで暮らしたいという希望が次第に増えてきたのです。

 こうした要望を受け、旭化成ホームズが発表した日本初の二世帯住宅は、1階と2階に世帯を分け、玄関は別々で内部での行き来もしない独立志向の強い完全分離型になりました。「べったり同居があたり前であった当時は”分かれている”ということに最大の意味があったのです」(松本さん)。

 その後、地価が高騰し始めた1980年代に入って、親の所有する土地に建てられる二世帯住宅はさらに注目を集めるようになります。同時に、同居生活をうまく運ぶ設計上の工夫として、親世帯と子世帯の関係性にも関心が高まってきました。同研究所はさらに調査を進め、「息子夫婦との同居」と「娘夫婦との同居」でプランニングの考え方に違いがあるという結論を打ち出しました。これが非常に的を射ていておもしろいので、少しご紹介します。

 息子夫婦との場合、お嫁さんの居場所を確保するためプランは「オモテ融合・家事分離」。つまり、表面的には同居だが、家事はそれぞれの世帯が自分の空間で行うほうがうまくいく、というのです。逆に娘夫婦との場合は「オモテ分離・家事融合」が基本。娘婿 の立場を尊重して表面的には分離するけれど、家事は母と娘が一緒に協力して行うというもの。このセオリー、知り合いの二世帯住宅を思い起こして納得される方も多いのではないでしょうか。

 そして21世紀に入り、専業主婦世帯より共働き世帯のほうが多くなると、親世帯と子世帯の間には新たな役割分担の意識が見られるように。「子世帯の多くが共働きになり、”二人の女性が家事を平等に負担する”という意識がだんだんと減ってきました。一方は外でしっかり働き、一方は家を守るというように、お互いに協力し支えあって暮らす、新しい形の融合スタイルが次第に増えています」(松本さん)。

 こうした変化に合わせ、二世帯住宅のプランニングにも新たな視点が加わります。それは「親世帯と子世帯で、夕食を一緒にとるかとらないか」ということ。これまでのように、各世帯の家族構成や、息子夫婦か娘夫婦のどちらと同居するかという続柄関係だけでなく、”夕食”という生活志向性によって距離の取り方を変えよう、という考え方です。

 例えば日頃から夕食を別々に食べているならキッチンは各世帯に設置し、洗濯もそれぞれ別に行うなど、生活はすべて分離する同居スタイルのほうが、お互いのペースを守りやすくなります。一方、夕食を一緒に食べるのであれば、家事も協力して行う傾向があります。でも、全てを一緒にするのではなく、サブキッチンなど独立できる空間も用意したほうが、知人が訪ねてきた時など何かと重宝しそうです。

「どちらの場合でも、親世帯と子世帯では生活時間が違うので、遮音性はしっかりさせたほうがいいですね。案外盲点になるのが洗濯スペースです。最近は安い深夜電力を使って夜遅く洗濯をする方も多いのですが、親世帯は就寝が早いのでなるべく遠ざけるなどの工夫をしたほうがいいでしょう。また、親世帯と子世帯それぞれの空間で、日当たりや風通しが確保されているか、といったこともチェックしたいですね」(松本さん)

 社会の変化に伴って、少しずつ進化を遂げてきた二世帯住宅。「最近の傾向として、融合志向への意識がますます強まっているように思います。その背景には、親世代の意識の変化が大きいですね。自身が若い頃に祖父母世代との同居で苦労してきた世代なので、子世代に理解がある。子世代も”甘えるべきところは甘える”という柔軟な気持ちの方が多く、義理の両親と友達のように仲良く暮らしています。特に最近は、娘婿がとてもなじんでいるというか、義理の親に頼られているケースが増えています」(松本さん)。

 厚生労働省の国民生活意識調査によると、2007年まで減少傾向にあった三世代同居の比率が、2 008年は増加に転じています。親の土地があれば土地購入費がいらず、国の優遇制度も充実してきたという経済的メリットだけでなく、祖父母と子供の交流や、いざという時に支えあう安心感など、心理的なメリットもクローズアップされてきました。単身世帯や核家族の増加といった行き過ぎた家族の細分化を経て「やはり家族は一緒に暮らすべきなのでは?」という揺り戻しの気持ちが芽生え始めているのかもしれません。

「街並みとしても、広い土地を細かく区分けして小さな住宅を2棟建てるより、そのままで二世帯住宅を建てたほうが緑が残り、景観にゆとりがでます。親子関係だけでなく都市全体に対しても、二世帯住宅は住環境の向上に貢献できると思います」と話す松本さん。社会が成熟し、住宅のあり方にもこれまでと違う視点が投げかけられている現在、二世帯住宅の可能性には大いに注目していきたいと思います。


旭化成ホームズの初代二世帯住宅のパンフレット。1階と2階で親世帯と子世帯を完全に分離。2階玄関へは外階段を使う徹底ぶりで、集合住宅に近い印象だ。


昨年8月に発売した最新の二世帯住宅シリーズ「ヘーベルハウス 二世帯-f」。上は夕食を別々にとる「ダブルキッチンタイプ」、下は夕食を一緒にとる「サブキッチンタイプ」だが、どちらも外観からは二世帯住宅には見えないデザイン。


「ヘーベルハウス 二世帯-f」の建物分離度の考え方。夕食のスタイルから、キッチンや浴室、玄関などの”独立” “共用”を考え、ぴったりの二世帯住宅のタイプを見つけることができる。




取材協力:旭化成ホームズへーベルハウス http://www.asahi-kasei.co.jp/hebel/
       二世帯住宅研究所 http://www.asahi-kasei.co.jp/hebel/nisetai/

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