中古住宅の本当の価値をきちんと測るモノサシが必要
ホームインスペクションとは、住宅の売買などの際に行われる”建物調査”のこと。診断を行うホームインスペクター(建物調査事業者)は売買に関わらない第三者機関として、住宅の劣化状況や欠陥の有無、改修すべき箇所やその時期、おおよその費用を見極め、依頼主にアドバイスを行います。
アメリカでは、州によって異なるものの、不動産取引全体の70%~90%の割合でホームインスペクションが行われ、すでに常識となっていますが、日本ではこれまでほとんど普及していませんでした。
1999年に日本で本格的なホームインスペクション事業を開始したのが、不動産コンサルティングサービス会社のさくら事務所。代表取締役社長の長嶋修さんは、初めて不動産仲介の仕事をした際、土地の査定中心で建物の中身をよく把握しないまま売買が行われることに驚いたといいます。同時に、建物の品質と価格の関係にも疑問を持ったのだとか。
「どんな家でも10年で約半値、20数年で価値がゼロになってしまうのが、日本の不動産の常識。裏をかえすと、建築時に建物にこだわり、お金をかけた人ほど損することを意味しますが、それはヘンじゃないかと違和感がありました。実際、3000万円の価格がついた中古住宅を調査してみると、状態は物件ごとにバラバラ。築年数だけで判断するのではなく、建物の本当の価値をきちんと測るモノサシが必要だと思いました」(長嶋さん)。
ホームインスペクションは、契約前に購入予定者自身がホームインスペクターに依頼するケースがほとんどです。さくら事務所では診断を大きく二段階に分け、一次診断では目視で屋根、外壁から室内、小屋裏、床下などの劣化状態を診断するのが基本。この時点で問題なしとなるケースも多いのですが、”メンテナンスが必要な可能性あり”と診断した場合は、各種機器を使ってより精密な検査を行うことを勧めています。
依頼する際は、その家でどのような生活をするかを、きちんとインスペクターに伝えることが重要だそう。たとえば将来子育てを予定しているカップルの場合、「子どもにとっての安全性」という視点でもチェックしてもらうようにします。
また、ヴィンテージマンションが好きで補修費に多少費用がかかってもいい、ということであれば、事前にそうした要望を伝えた上で、メンテナンスのメニューと見通しを報告してもらうようにします。ひとつとして同じものがない中古住宅と、世帯ごとに異なる住み手のライフスタイルを照らし合わせ、ホームインスペクションの目的とメニューも自ずと個別性が高まります。
中古住宅人気に伴いホームインスペクションを行う事業者も増加の一途を辿っています。設計事務所などが副業でホームインスペクションを行うケースも増えていますが、一級建築士など資格の有無だけにこだわるのではなく、建物の劣化補修などの現場を手掛けた実績のある事業者を選ぶことがポイント。
NPO法人日本ホームインスペクターズ協会のウェブサイトでは、同協会が認定した全国のホームインスペクターを検索することができるので、このような公的機関を利用するのもひとつの方法です。木造、2×4、RCなど得意なカテゴリを持つホームインスペクターもいるので、相談する際には合わせて確認するようにします。
リフォーム前で汚れていたり、庭が荒れていたりと、見た目の印象が悪くても建物自体の状態はよい、というケースは意外とあります。こうした割安な物件を安心して手に入れられるのも、ホームインスペクションのメリットのひとつだと話す長嶋さん。逆に定期的なメンテナンスを怠ったために、見た目はきれいでも取り返しがつかないほど傷みが進んだ家も多いのだそう。
「メンテナンスの重要性を感じますね。今後は日本でも長寿命住宅の普及に伴って中古市場が広がり、ホームインスペクションも定着すると考えられます。将来住まいを売却する可能性のある方は、今から定期的な点検とメンテナンスをしっかりすることをお勧めします。家の価値が大きく変わることも十分ありますから」(長嶋さん)。
ホームインスペクターは住宅の健康を客観的に診断するアドバイザー。立場は中立で、購入を勧めたり反対したりすることはありません。第三者として建物の本当の価値を見極めると同時に、きちんとメンテナンスをした住宅に長く住み継ぐことを推奨しており、環境配慮という意味でも大きな役割を担っています。
目視で、住宅の劣化具合や施工状態を確認するホームインスペクション。「床下」や「小屋裏」など、開口付近の木材含有水分率(湿気)の確認や、各種設備の機能の確認など、全体として建物が普通に生活できる状態にあるか確認を行う。
目視より1段階深いホームインスペクション。容易にチェックができない「床下」や「小屋裏」に潜り込み、建物の劣化具合や施工状態を確認。
特殊調査機材を使用したホームインスペクション。「筋かいの有無」や「断熱材の有無」「雨漏りの可能性」など、目視では確認することができない部分について、必要に応じて専門機材を用い、非破壊による状態確認を行う。
取材協力: 株式会社さくら事務所 http://www.sakurajimusyo.com/
NPO法人 日本ホームインスペクターズ協会 http://www.jshi.org/
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