「リノベーション」や「コモンスペース」に見る集合住宅のトレンド
リノベーションの先駆者、株式会社リビタが手がけた「THE SHARE」(渋谷区神宮前3丁目)は、昭和38年の建物を再生し、オフィスと住宅(64室)に改築した賃貸物件。住宅は、ひと部屋あたり7疊~13疊で、住戸内に水まわりはありません。共同のトイレとシャワーが各フロアに、キッチンは最上階にラウンジやシアタールームなどといっしょに併設されています。募集をはじめて2ヵ月後には、95%の稼働率(2012年1月時点)。驚いたのは、宣伝活動を一切行なっていないこと。インターネットで従前に応募のあったリストだけで満室に近い申込みが入ったというのです。
建物の図面を見ていると、かつての独身寮を連想します。バブルの時代、企業の人事部は優秀な人材を確保するために、不人気な共同寮から、プライバシーが確立されたワンルームタイプのマンションに切り替えて、福利厚生の充実を図っていたのが嘘のようです。もちろん、立地や同じ組織に属さない人たちの集まりといった基礎的な条件が異なるとはいうものの、感性の移り変わり、時代の違いを感じずにはいられません。
また最近では、こんなトピックスも。大手マンションデベロッパーとアパレル業界の「ユナイテッドアローズ」の提携です。これは、野村不動産が分譲するタワーマンションの購入者に、同社のオリジナル収納家具などを提供するというもの。20代から40代のライフスタイルを提案する「ユナイテッドアローズ」の鴨志田氏(クリエイティブディレクター)は、新築マンションのインテリアテイストをこんなふうに評価しています。「”ゴージャス”を意識しすぎ。そんなに気取ってどうするといいたい」。
マイホーム購入はひとつの夢。だからそれを壊さないよう、モデルルームでは細心の注意を払って、小物ひとつもおろそかにせず、お客様を迎える用意をします。しかし、ファッションという何よりトレンドに敏感な業界の第一人者をして、「方向が合っていないのでは?」。独りよがりな空間に見えなくもないというのです。
小倉弘之氏(ハプティック株式会社代表取締役)も、そんな需給の感覚の差に着目したひとり。和室を残し、クッションフロアとコンロのないキッチンを残したままで、リフォームをかけても、「入居希望者には受け入れられにくい」。そこで、大きくコストをかけずに、ニーズに見合った改築を提供する会社を立ち上げました。社会問題化しつつある空室対策に「やれることはまだまだあるのでは」と事業を展開しています。
マンションは、利便性と規模のメリットを享受できる住居形式です。不動産デフレが都心回帰を呼び、また大量供給が設備の飛躍的な進歩につながりました。快適な集合住宅は、もう手のつけようがないくらい完成度が高いともいわれています。しかし、「集まって住む」ことの本質的な利点は本当にいかされているのか、コストのかけ方はニーズを捉えきれているのか、まだまだ研究、改良の余地はあるといえるかもしれません。
都市型コンパクト分譲マンションシリーズ「A-standard(エースタンダード)」は、制約の多い小規模マンションの共用部に、入居者同士が適度な距離感で自由な時間を過ごせる空間を設けました。同シリーズを渋谷と本郷で手がける永井健介氏(京阪電鉄不動産)は「郊外で培ったコミュニティ形成のノウハウを都心でも発展させたい」といいます。
「昨今”絆”といわれていますが、構想自体は震災のもっと前から」と永井氏。マンションのコミュニティは、いろんな意味で本質的な暮らしの基盤のようなもの。さまざまな角度から”心地よい家”を見直すきっかけになればと、今回インテリアとコミュニティをあわせて取り上げました。
(トップの画像は、「ユナイテッドアローズ」が提案するコリドー(廊下)収納。プラウドタワー東雲モデルルームにて)
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「THE SHARE」(渋谷区神宮前)シェアスペース「ダイニング」(手前)「ライブラリー」。
「パプティック」施工例。天然素材を使い、心地よい空間を比較的廉価で提供。
「A-standard」モデルルームには、コモンスペースに設置する大テーブルが展示されている。
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