マンション居住者はどこに力点を置くべきか?
「成熟社会における不動産の選び方」に引き続き、資産価値についてヒントを探ってみましょう。今回は対象不動産をマンションに絞ります。なかでも大規模マンションに住んでいる人にとって、特に重要となる視点にフォーカスしてみたいと思います。
前回記事で、成熟した社会では全体の資産価値が上がることは考えにくいと書きました。需要が集中して価値が上がるところがあれば、逆に下がるところが出る。上昇するためには、多様な魅力を持ち合わせていること。幅広いニーズを吸収できる「利用価値の高い」不動産が有効だと説きました。故に、物件選びでは自己評価よりも他者評価の重視しましょうと。ここまでが前回の要点です。
今回のポイントは、住んだ後の価値創造についてです。
右図は、住人(居住者)と外部の人、それぞれの認知の有無を4象限に分割した表です。一般的に知られている<ジョハリの窓>と同じ考え方です。①開放、②盲点、③秘密、④未知。さて、これにマンションのスペックや住み心地を当てはめるとどうなるでしょう。
マンションは、たくさんの人が同じ建物に住む集合住宅です。一戸では不可能(あるいは実現したとしてもかなり高コスト)なことを複数戸合わせることでスケールメリットを発揮することが、その特長です。タイル張りの重厚な外観、エレベーターの導入、ホテルのような豪華なロビー、セキュリティ、眺望など。戸数が増えるほど「規模の経済」はよりその効果を発揮するといわれています。ここでは各個人の専有部を除き、共用部やコミュニティ形成を想定してみます。
コミュニティ形成と共用施設のメリット
「ザ・パークハウス晴海タワーズ クロノレジデンス」キッチンスタジオ
例えば、①の「居住者も外部の人も知っていること」には、「建物の外観」が挙げられるでしょう。「エントランス」や「車寄せ」なども外から見える場合が多い。敷地外周に植えこまれた「植栽=緑地」なども同様です。あえて説明がなくても、外から見える部分ですから現地に行けば誰でも理解できるはずです。
④は誰にも知られていないことですから、対処のしようがありません。ここには恐らく、将来的な事柄が該当するのではないでしょうか。(未発表の)交通インフラ、隣接地を含む周囲の土地に立つ新しい建築物などです。
一番のポイントは③です。入居は知っているも、外部の人には分からないこと。たくさん挙がるのではないでしょうか。コミュニティの形成、管理組合の取り組み姿勢、共用施設の利便なども入ります。大規模マンション、タワーマンションになれば、じつに様々な共用施設が用意されます。パーティルームやビューラウンジ、屋上から都心を一望できる物件も少なくありません。しかし、それらは入居者か入居者に招かれたゲストしか体験することができないもので、世間のほとんどの人には知り得ない利点です。資産価値は、そこに住みたいと思う人数の総和。「物件が持つ利用価値」はできるだけ外に向けて情報発信する必要があるのです。より多くの人に知ってもらい、③に属する事柄を①に移動させることが重要です。
②の盲点には、どちらかというと悪いニュースが入るのかもしれません。地域社会の一員としてのマナーやエチケットの類。できるだけ、無いに越したことはないといえそうです。
情報発信が鍵を握る
昨年10月、東京五輪2020開催決定で注目される東京臨海地区に大規模タワーマンションが竣工しました。「ザ・パークハウス晴海タワーズ」地上49階建て、総戸数883戸。免震構造を採用した白亜の建物には、カフェラウンジ、プライベートテラス、ゲストルームが3室、キッズルーム(タイトル画像)などの他にも、フィットネスルームやゴルフレンジ(一部シミュレーション機能付き)まで併設されています。上の画像はキッチンスタジオ。カウンター上部の2つの大きなミラー(鏡)は、料理人の手元が見えるように備え付けられたものだそうです。著名シェフに空間デザインの監修を依頼したことで、このような本格的な料理教室も催すことのできる仕様になりました。
ゴルフレンジも、ゴルフをしない人にとって見れば、「過ぎた施設」と捉えられるかもしれませんが、過去の事例から最も稼働率の高い共用施設のひとつであることが判明。設計途中の段階で急きょ企画されたアイデアだそうです。
世界的に有名な建築家であるリチャードマイヤー氏が手掛けた外観デザイン(右の画像)は、タワーマンションがひしめく湾岸エリアのなかでも目立つ存在。しかし、料理教室が開けたり、ゴルフの練習ができることは、入居者(またはゲスト)しか知らない情報でしょう。利用価値を資産価値に変転換できるか否かは、(入居者たちによる)情報発信の有無にかかっています。
大規模マンションが珍しかった時代は、共用施設にゲストルームやパーティルームがあること自体が希少性だと捉われていました。しかし、子どもが大きくなれば稼働率が減少する過大なキッズルームや高コストな施設、管理困難なプライベート空間は運用が容易でなく、トラブルの元になる可能性もあって、その後取捨選択が進みます。最近ではそうした学習効果を踏まえ、本当に喜ばれる施設だけが用意されるようになったといえるかもしれません。だから尚のこと、入居者は利用価値を享受しながらも、資産価値に還元させる取り組みが有効です。(坂根)
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